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鎌田順也 追悼文集 【宮崎吐夢】

 2014年4月に『バック・イン・ブラック』という作品で初めて東葛スポーツに出演した際、それを観にきた鎌田さんが「吐夢さんの出し方よくない。ああいうの意味ない」と感想を漏らしていたと金山(寿甲)さんから聞いて、率直なものの言い方をされる人なんだなぁというのが鎌田さんご本人の第一印象です。
 ナカゴーを初めて観たのは、『黛(まゆずみ)さん、現る!』(2012年7月)。そのときはまったくピンときませんでした。次に『牛泥棒』(2013年7月)を観て「こんな面白い演劇があったんだ!」と衝撃を受け、一年前のおのれの見る目の無さを恥じつつ遅ればせばがら鎌田さんの大ファンになり、以来作品を観続けました。
 何きっかけで最初にご挨拶したか覚えていませんが、鎌田さんの作品が大好きであることを伝えると、「でも吐夢さん。初めて観に来たとき、序盤からつまんなさそうにしてずっと下向いてたでしょ」と指摘され、本番中に観客ひとりひとりの反応までしっかりとチェックする人なのかとビックリいたしました。
 鎌田さんは私が出演する舞台もよく観に来てくれました。それも笑いの要素の少ない、比較的大きい劇場での正統派のお芝居ばかり観に来てくれた気がします。なかでも、マーティン・マクドナー作・長塚圭史さん演出の『ハングマン』(2018年5月)という舞台を気に入ってくれて、「こういうお芝居。いつか自分もやりたい」と仰いました。
 鎌田順也演出の翻訳劇や大劇場での商業演劇もぜひ観てみたいと思いましたが一方で、鎌田さんは「岸田國士戯曲賞のノミネートのための戯曲提出依頼にはかたくなに応じない」という話も聞いていたので、いわゆる「世間的な評価」「メジャー進出」的なことには興味のない方なのかなと思っていました。
 2022年2月。ほりぶん『かたとき』(紀伊國屋ホール)を私は一番後ろの席で観たのですが、「ムーブ町屋4Fハイビジョンルーム」や「王子小劇場」で観ていたときのインパクトがそのまま再現されていて、その戯曲も岸田國士戯曲賞にノミネートされました。「鎌田さんはやっと、活躍の幅を広げていく覚悟を決められたのかなあ」と感じました。
 劇場ロビーで「来年5月って空いてます?」と鎌田さんに聞かれたことがあります。あいにく舞台の予定が入っていました。まあ「空いてます」と答えても、それっきりだったかもしれません。鎌田さんと立ち話以上のお話しをもっといろいろしてみたかったです。
 もう鎌田さんの新作を観ることが出来ないのはあまりにも残念ですが、あのような傑作の数々を観られたことに感謝いたします。

宮崎吐夢

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