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チョコレート事変

日本からのお客様に伝えることが多い思い出話です。

日本に住んでいた時から英語に触れ合う機会はありました。家には「トーキングカード」があり単語やマザーグースの歌などを繰り返し聴いたり、幼稚園でも英語の先生が来園して活動したのは覚えています。
ラジオ「基礎英語」やテレビ「セサミストリート」も放送していました。

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小学高学年ごろになると父の仕事にオーストラリアが関係してくる様になり、父が通っていた英会話教室の催しに参加したりネイティブのお客様の来客があったりと、英語への意識が高くなっていたと思います。
中学で英語を教科として勉強するようになりましたが成績も上々でした。

「英語は好き、得意」という認識を持つ中、オーストラリア移住が決定。当初は別に気にすることもなく手続き、引っ越し準備などが終わりいよいよ人生2回目の飛行機に乗って旅立ちました。

まず降り立ったのはメルボルン。父は仕事の関係でオーストラリア永住権を取得しており、その家族として「在メルボルン日本国総領事館」にて登録する為に立ち寄る必要がありました。

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メルボルンはヴィクトリア州の州都。今まで3回くらい行ったことがあります。

無事に登録も終わり宿泊のためにホテルへ。今はSofitelにホテルグループが変わりましたが当時の名前は「Regent Hotel」という、中々豪華なところでした。「リージェント」がツッパリヘアスタイルの「リーゼント」みたいで爆笑した記憶があります。

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高層ホテルでエントランスやロビーも豪華。日本にいた時は宿泊したこともなくうっとり眺めながら客室に到着。
「あ、ベッドだ」(日本の時は布団)
「お風呂ってシャワーなのか」
「靴脱がなくていいんだ」などと徐々に自分が日本にいない事を感じ始めました。

荷物を置き、服も着替え落ち着いたところで両親に
「チョコレートがほしい」といった私。
お金をもらいロビーにあった売店に向かいました。

ずいぶん前の話なので写真もなく記憶もうっすらですが多分この売店はカフェみたいなところでちょっとした食べ物や飲み物を売っていて、イートインスペースもあったのではないかと思います。

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イメージとしてはこんな感じ?

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そしてチョコレートはこんな感じのスタンドに陳列されていたと思います。

ここで問題にぶち当たります。そもそもオーストラリアのチョコレートなんて見たこともなかったし、外見からどんなチョコレートか判断する事もできませんでした。そして一番の難関は... このチョコレートのスタンド、手が届かないところにありました。盗難防止のためなのか、置く場所がそこしかなかったのか、多分カウンターの後ろにあったと思います。

この「手に取ることができない物」を買うにはもちろん店員さんと話すしかありません。そしてまたもや問題が。
「チョコレートを買うって、何言えばいいんだろう」
…頭の中は大パニック、私は助けを求めるべく両親のもとに向かいました。

すると母の一言。「これからここに住むんだから自分で買ってきなさい」

すごすごと売店に戻り、辛うじて日本でも売っていたキットカットを見つけ日本語訛りで「KitKat」と一言、そして指差しでその場を凌ぎました。

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この「チョコレート事変」は自分の中にあった英語の概念をガラッと変えました。それまでは「楽しく英語を聞いていた」から好きでした。「英単語や文法を暗記できて授業やテストで思い出せた」から成績も良く得意だと思っていました。

でも「チョコレートを買う会話が出来なかった」は大きなトラウマになりました。母が言った通り英語が「この国で生きていく必須スキル」に変わった事を嫌ほど実感したきっかけです。耳を傾ければ英語だらけ、しかも誰も優しく日本語で翻訳してくれません。そして「話せてなんぼ」なのに何を言えばいいのか分からない、そして何より失敗を恐れ単語が頭にあっても話す勇気が出ませんでした。英語は恐怖になり、オーストラリアに移住してから6か月はほとんど無口でした。

もちろん今ではCan I please have a KitKat?という感じの問いかけであの時の会話は十分成立できたのは分かります。しかも英文法的に見てみると
I can... 「...できる」という助動詞は既に中学校で習っていたしこの文章にある単語全ては知っていました。でも、そこから発想を飛ばしCan I...?「...できますか」と疑問詞に置き換え「許可を得る=自分の要求を伝える」事を中学校の英語の授業では学ばなかったし、自分の頭の中でも結びつきませんでした。

「英語の成績がいい」は果たして「英語を使える」に結びつくのか。
又、英会話は日本の英語の授業で学んだ語彙でかなり賄えるが、シチュエーションに合わせて適切に表現できる応用力、実用力を生徒が取得しているのか。2020年に小学校の英語教育が必修化になり、どのような授業が行われているのか興味があります。

みんな英語でチョコレートが買えるようになってほしいです。


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