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バースデッド

今日は彼女との初デートだ。
私がこの地球という星に誕生してから初めての彼女であり、デートである。
デートというものがイマイチよく分かっていないが、友人が言うには
「相手を楽しませて、最後はプレゼントなんか渡すといいぜ」
とのことだ。
私は、渡されて嬉しいものとは……?と考えると、小学校の頃友人に貰って嬉しかった物を思い出した。
今私が右手に下げている紙袋の中には、幾千という数のセミの抜け殻が入っている。
そんなことはともかく、待ち合わせ予定の遊園地が見えてきた。
少し歩くペースを早める。

やっと遊園地の前までたどり着いた。
だが、今私はかなりまずい状況に陥っている。
バースデー委員会に見つかった。
入園所で通行止めを食らった時、私が胸に下げているお誕生日プレートが奴らの目に止まったのだ。
奴らは私を見つけるなりバースデーソングを歌いながら足早にコチラへ向かい。唖然とする私を捕縛した。
気づけば私は両腕を2人のバースデー委員に取り押さえられ、残った1人がバースデーケーキをコチラへ向けてきていた。

迂闊だった。お誕生日プレートを胸に下げておけば皆に威張れるだろうという魂胆だったのだが、悪い方向へ転じてしまった。
私は両腕を振りほどこうと暴れるが、頭上のバースデーハットがカサカサと音をたてるだけだった。
ケーキを持ったバースデー委員が言う。
「さあ、ロウソクの火を消すのです」
そんなことやってたまるか。
ロウソクの火を消すと自分の近しい人の命の灯火が消えるというのは常識だ。
奴らがそれを知っていないはずは無い。
「どうしたら見逃してくれるんだ……?」
「誕生石を買うのです。あなたの誕生日は四月ですので……ダイヤモンドとなります」
冗談じゃない。
私はセミの抜け殻を買ったことでサイフが空なのだ。
「そこのセミの抜け殻はダイヤモンドと同価値の量がある……それで許してくれ…」「残念です。払えないのであれば……」
バースデー委員はケーキの中から拳銃を掘り出し、銃口をこちらへ向ける。
「こうするしかありませんね」

バースデー委員が銃口を引くと、カラフルな長細い色紙と細かな紙吹雪がコチラへ6発発射された。
「クラッカー……!?」
辺りに濃い火薬の匂いが漂う。
「お誕生日おめでとうございます。冗談ですよ、ハハハ」
いや、クラッカーを人に向けるのも危険だから。
なんて考えはしたが、一刻も早くここから逃げ出したかった私は笑うしかできなかった。
「それでは、いい誕生日を」
やっと解放された。私は清々しい思いで地面を蹴った。
これがいけなかった。
私は趣味で靴底を火打ち石にしているので、強く地面を蹴ることにより火花が散り、辺りのクラッカーの火薬と作用したことで辺りは爆発した。

気づくと私は空にいた。爆風で真上に飛ばされたのであろう。
風を切る気持ちよさと、大変なことをしてしまったという罪悪感がミスマッチし、私は変な顔になっていた。
Googleアースで確認したところ、遊園地を中心に半径200キロが消失していた。
私は、空の人となった。

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