PHOTO BOOK「周辺視野」

画像1 【プロローグ】レンズを透して写し出す限られた世界。その小さな世界に、どれだけ「想い」という情報を織り込み、被写体の本質と呼応させていけるのだろう。排他的な強い「思い」は、時に欲望の凶器となり、本質を破壊し現実を夢へと変えてしまう。それは快楽という名の悲劇。心のレンズを磨き、経験というフィルターを透し切り取った鮮鋭なる一瞬の世界。そこに写るものだけでなく、視野の何処かにある「想い」の欠片に合焦しそれを受け入れた時、写真は心の襞に沁み込む感動の一滴となり、本質を雄弁に語り始める。
画像2 ー明日(あした)ー 空は何を語るか
画像3 《不安》さっきまでの青空は、あっという間に小さくなって、逃げるように小さくなって。
画像4 《混沌》それは父なる天の怒りか、もしくは母なる大地の怒りか。小さな私は、膝を抱え、為す術もなく。
画像5 《希望》それでも暗雲は去り、慈愛の太陽が希望の斜光をゆっくりと降ろす。
画像6 《期待》燃えるような夕照に、心の曇りは晴れ。私を乗せた小舟は、期待の海へと漕ぎ出していく。
画像7 《覚醒》そして、気づきの朝は、静寂のなか幕を開けた。
画像8 《明日》昨日を超えて訪れた明日。それは、今日という名の幸福にちがいない。きっと。
画像9 ー約束ー あふれる愛
画像10 《約束》その時僕には、雲ひとつない青い空が見えた。待ちわびる、幸せいっぱいの笑顔が見えた。きっと、大切な人との大切な約束に向かって、その車は走っているに違いない。そんな「想い」でシャッターを切った。激しく降る雨を、ぼんやり眺めていた、午後の事だった。
画像11 《誓い》慈しみの心を紡いで織り上げた、「幸せ」という名のヴェールで、包むべきかけがえのない人がいる。空に誓った夏の日、風は雨の匂いがした。
画像12 《燦燦》
画像13 《帰去来》何故かとても切ない気持ちになって足を止めた。そこには、この空の彼方にある故郷を想う僕がいた。皆は元気でいるだろうか。懐かしい笑顔、街の匂い、風の匂い。時には、気持ちごとゆっくり帰ってみるのもいい。冬の夕空にのびる駐車場のスロープ。それは、心の定期便が故郷へと飛び立つ望郷の滑走路。そんな気がした。
画像14 《あの日の少年》そこに行くと、僕はいつも話しかける。遠い記憶の中のあの日の少年に。変わってしまったこの街。でも、変わらない大切な心がここにはある。その温かな心を、僕は無くしてはいないだろうか。変わってしまったこの街で僕は、あの日少年だった自分にそう問いかける。
画像15 ー沈沈とー 生命、啓く世界
画像16 《虫、声を啓く》賑やかに歌う鳥の声に誘われ、朝のカーテンを開ける。窓の下、柔らかな陽だまりの中に、早送りで訪れた春があった。耳を澄ますと、虫達が啓く春、その息遣いが聞こえてくるかのようだった。
画像17 《沈沈と》「夜を連れて参りました」そう彼は言った。眩いばかりの星夜。その星達を翅に纏い、彼はやって来た。深く静かな夜を連れて、彼はやって来た。
画像18 《沈静》川に立ち、静かに目を閉じ、心を開く。川の流れも人の世もひとしく、見えている部分など、如何ほどのものだろうか。魚達の世界に身を置き、そこから自分を深く見つめる。そうすれば、自分自身が見えてくる。物事の本質が見えてくる。そんな気がする。
画像19 《龍の泪》冬の終わり、天空の龍は銀色の泪を流す。地上に溢れる、生命の讃歌を耳にしたのだろう。その泪は、キラキラと輝く雨となり、大地を潤し、季節のスイッチを入れる。やがて風が吹き、春が訪れる。
画像20 《春のダンス》
画像21 【エピローグ】カメラのシャッターを切るその時、僕は想像する。切り取った瞬間の向こう側で、静かに時を刻んでいる、現実というありのままの世界を。計り知れないその世界の中にある「何か」と僕が想った世界が互いに響き合い、写真となった時、とても魅力ある表現がそこに生まれるとしたら、それはとても素晴らしい事だと思う。だから僕は想像する、目に見えない世界を。そして「想い」のままに意図していく。僕にとって「写真を撮る」とは、そんな心の作業なのかもしれない。

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