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Do you have the time? vol.2

極北の大地をつらぬき滔々と流れる大河。大義を胸に、その流れゆく先を目指し勇猛果敢にも漕ぎ出した、若き探検家のスピリット。

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RADO  MACKENZIE AUTOMATIC
ラドーマッケンジー オートマティック

違和感、そう違和感である。
この腕時計を初めて見た時、僕は言い知れぬ心地よい違和感を感じた。と同時にとても清々しい気持ちになったのである。

その違和感はいったい何処から来るのか?
早速、マッケンジーの世界に足を踏み入れてみた。

先ずは、そのぼてっと愛嬌のあるケースデザインである。クッションケースのラグ部分はそのままに、側面中央を引き伸ばす事でできた柔らかな曲面。それを絶妙にカットし5面構成とすることで、立体的な塊感を生み出している。柔剛のバランスが秀逸だ。ちょうど腕時計を見る時の、左手握り拳の形と呼応しているかのように感じるのは、果たして僕だけだろうか。
オリジナルデザインと思しき時分針は、ドーフィヌ針をモティーフにしたようだ。ドレス系に用いられるような形を敢えて使っているところがなかなかニクイ。
続いてシルバー文字盤6時位置の黄金に光り輝く〈M〉のアプライド。そしてペットネームであるマッケンジーの、MKZのみ何故か大きいレタリング表記がとても印象的だ。
最後に、画像では判りにくいかもしれないが、バーインデックスの中央部とミニッツマーカーの色が何とライトブルー配色なのである。そして、12時位置の錨マーク部分の赤とデイトの赤がイイ感じの差し色となっている。

1970年代当時、ラドー社の時計達はとても個性的なものが多かった。その意匠はもとより、タングステンを混ぜキズに強い高硬度なケースを生み出したり、ペットネームも山シリーズや動物シリーズ、自然?シリーズなど恐らくスイスに関連するものだとは思うのだが、なかなかに興味深く面白い(例:マッターホルン、アイガー、ゴールデンガゼル、シルバースタッグ、カペル(川?)etc)

調べてみるとマッケンジーが発売されたのは1972年。キャッチコピーは「新しいバレルラインの流行」とあった。なるほどこのケースはバレル(樽)のイメージだったのである。この個体はマイチェン後の2型のようだ。初期型は6時位置の〈M〉のアプライドが無いので、もう少しスッキリとした印象である。盤面カラーはこのシルバーの他に黒とグレイ?があるようだ。
因みにこのマッケンジーには「SWISS」の表記が何処にも見当たらない。他にも同様のモデルが散見されるが、これはムーブメントのみスイスETA社製のものを載せたアジア企画・生産の個体を意味するらしい。敢えて「SWISS」と記さず生産国を曖昧にし関税率を低くする云々、といった説もあったりするのだが真偽はどうなのだろう。いずれにせよ、当時のアジア諸国でのラドー人気が伺えるエピソードではある。
ひょっとしたら、代理店であった酒田時計貿易が絡んだジャパン企画のモデルも存在するのかもしれない。

それでは、僕が感じた清々しさの源を探す旅に出るとしよう。

先ずは、そのペットネームであるマッケンジーを、グッモ~ニ~ン、ウィッキー(ペディア)さんにお訊ねしてみた(昭和のギャグでスミマセン。分る方だけで結構ですハイ)

主に様々な分野で活躍した人物名が数多くヒットしたが、僕のセンサーがビビビと反応したのは、カナダはノースウェスト準州を流れる大河とスコットランドの若き探検家の名前だった。

以下ウィッキー(ペディア)さんの内容を要約すると…。

時は1764年、スコットランドで一人の男が生を受けます。彼の名はアレグザンダー・マッケンジー。後の1774年、彼の家族は一家で祖国スコットランドを離れ、カナダはモントリオールに移住。やがて成長した彼は大手の毛皮交易会社で働き始めます。1788年、旅で訪れたアルバータ州北部のアサバスカ湖付近でヨーロッパ人の入植地を発見、同僚を自身の後任として派遣しその地に社の交易所が設立されます。その後、同僚からカナダファーストネーション(先住民)の人々が「北西に流れる川」を知っているとの情報を得た彼。これがエクスペディションの契機となったのでした。大航海時代の16世紀以来、太平洋と大西洋を結ぶ「北西航路」の発見に多くの探検家が挑んできた歴史を知る彼は、遂に1789年7月10日、その情報をもとにカヌーを駆り、川が行き着くであろう北西(太平洋)を目指し漕ぎ出します。アレグザンダー若干25歳。しかし、その川の先にあったのは太平洋ではなく、北極海だったのです。失意のあまり落胆した彼は、その川を「Disappointment River ー失望の川ー」と呼んだのでした。

しかしながら、彼のスピリットは消えることなく、1792年、再び太平洋に向かう旅を計画、そして翌年の1793年、フレーザー川の上流部を発見した彼はついにカナダ太平洋岸に到達します。彼はカナダ横断に成功した初めてのヨーロッパ人となり、後に祖国よりサーの称号を与えられたのでした。【注】何となく独断で端折ったり修正した部分もあるので、その旨ご了承ください。

ん~実に壮大なエクスペディションストーリーではないか!

まさに、この失望の川こそがカナダ最長の川として知られるマッケンジーリバーなのである。もちろん彼の功績と名誉を讃えその名を冠したのは言うまでもない。また、このエクスペディションにより、彼はノースウェスト準州に足を踏み入れた最初のヨーロッパ人ともなったのだ。

この事実を知った僕はとても興奮してしまった。もちろん当時のラドーのデザイナーが、この事実をモティーフにしてマッケンジーをデザインしたかは知る由もない。ただ、そういった歴史的な背景をデザインに落とし込んだとしたら、それはとても情緒的かつ日本的な気がしてならない。ひょっとしたらマッケンジーは日本企画のモデルなのかも?そんな風に考えたりしてニンマリしてしまった。

いずれにせよ、このマッケンジーに対するイメージは、若き探検家の弛まぬフロンティアスピリットと彼が対峙したであろう極北の大自然として、僕の意識野に果てしなく広がっていったのである。

放射状に光るシルバーサンレイ仕上げの盤面は、まさに極北の沈まぬ夏の太陽ではないか。鮮やかなライトブルーのミニッツマーカーはマッケンジーリバーの清冽な流れそのものである。時分針が一直線に重なりカヌーに、秒針はパドルとなって大河へ漕ぎ出してゆく。さあ、旅の始まりだ。くるくると回転するラドーの錨マークは、さしずめ若き探検家の心の羅針盤といえよう。

今回、この素晴らしきストーリーに敬意を表し、ウォッチバンドはグリーンのNATOストラップをセット、更にノースウェスト準州に滞在経験のある義妹より貰った貴重なステッカーとともに撮影をした。もちろんそのグリーンカラーは、マッケンジーリバー流域の森林帯~極北ツンドラへと続く、カナディアンウィルダネスのイメージに他ならない。

さして大きくはない36mm径の腕時計に、時代を超え語り継がれる物語を重ねると、僕は時空の旅人となり、あたかも若き探検家と共に旅をしているような感覚を憶えた。清々しい気持ちの正体はまさにそれだったのだ。

ラドー マッケンジー

ふと思い立ち、旅に出る。
そんな時、身につけたくなる一本である。

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【追記】
・6時位置の〈M〉のアプライドは、マッケンジーのイニシャルであると同時に、奇しくも僕のファミリーネームのイニシャルであり、それが所有満足感をさらに増幅させております笑
・カナダの首都オタワにあるカナダ・ナショナルギャラリーには巨匠トーマス・フローレンスによるサー・アレグザンダー・マッケンジーの肖像画が所蔵されています(ウィキペディアより)









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