映画『OUT』感想

見てきた!とりとめもなくざっくばらんに感想。

・かっこいい!面白い!熱い!泣ける!という思いももちろんあったんだけど、見ている間中薄くずっと「こういう状況、本当に嫌だな……」という感情が底にあり続けたのが自分でも面白かった。あんまり物語中の不法行為を現実に引き付けて腹立たしく思ったりはしない方なので、OUTが結構リアリティある作りなんだろうなと思う。三塁が襲撃されるシーンに泣きそうになって、別世界の熱く華々しい話ってよりは、身近な嫌さが溢れている作品だなと感じた。「退く」ことに何かしらの技術や不愉快さの承服が不可欠なの、きつい世界だな〜と思う。

・だからこそ三塁のおじちゃんおばちゃんがしたことはものすごく価値が高くて有意義なことだし、達也が何度か喧嘩を思いとどまるのも、要や敦司がした気遣いも、すごいことだよなーと思う。なかなかこういうことは出来ない。「バカだけど、クズじゃない」って言葉、予告で聞いて想像していた以上に作中で何度も何度も繰り返されたフレーズだったけど、染み込み方がどんどん変わっていくのが良かった。出所してすぐの、おじちゃんが言う最初のこのフレーズと、達也自身で自分に言い聞かせるように言う最後のフレーズが、個人的に特別好きだった。

・達也役の人、目の演技が本当にすごい。あんまり喧嘩売ってくる人の顔を間近で見たことがない人生なので、ああいう類の人たちは何を言われたわけでもないのにどうやって相手の視線だけで自分が喧嘩を売られたかどうかがすぐ分かるんだろう、と思っていたけど、達也の感情はものすごく目や表情に出るので、なるほど確かにこういう顔で見られたらこっちもすごすご引けないわ、という納得感があった。ぐらぐら感情が煮えたぎってる時の静かな熱のある目が本当に怖い人なので、要やおばちゃんとふざけて話してる時やあっちゃんと海に行くとき、おじちゃんおばちゃんの前で泣きそうな目をするときの、達也の感情がより一層胸を打った。達也は難しい言葉をべらべら話す人じゃないから、声のトーンとか表情とかに乗せるものが多くて、それを味わうのが楽しい。兄の亡くなった場所に花を供える千紘と会話した後、達也の目に光のハイライトが入るシーンがこの映画で一番好き。

・要、熱くて良いやつ。実写映像作品に疎すぎて私は水上恒司が出ているものをMIU404くらいしか知らず、スマートな役柄を演じがちなイメージがあったからすごく驚いた。殴る蹴るの動きに重さがあって、見ていてテンション上がった。いつもはすごくドスのきいた、自分に自信のある人の声なので、千紘と5代目総長のことを達也に語るときの声の、困ってしまっているような、しみじみ感服しているような、そういう少し幼なげな声がすごく印象に残っている。語りは「あの日」という始まり方だったけど、その声だけでがらっと、これから始まる話が要や斬人や千紘にとって痛ましいことなんだと分かるのがいい。冒頭、少年院で達也が折りきれずに爆発する要因になっていた千羽鶴が、ラストシーンの病床の要のセリフに効いてくるのがめちゃくちゃ良かった。ここのラストの主題歌HIDEOUTの入り、大好き。

・敦司かっこいい!!白いスニーカーが血が汚れるのも、綺麗な顔は全然汚れないのも全部かっこいい。普段のお茶目さと、もう倒れている相手の顔を踏むときの執拗さのギャップにぞくっとした。6代目総長となんか過去にあったりするのかな〜。続きが気になる。

・斬人たち、憎めなくてかわいい。そして強い。田口と張川の殴り合いが見ていて一番どきどきしたし気を揉んだかも。音も動きもいちいち本当に痛そうで、見応えあった。田口と目黒のかけあいも良かった。田口を諌めてる風で目黒も全然血気盛んだし、アイビーボウルで達也を囲むときも普通に達也のことを煽ってるのがいい。爆羅漢との抗争のとき一緒に殴ってたのといい、最後の三塁エンディングで沢村姉弟を先に呼び寄せてたのといい、目黒が沢村を気にかけてる風だったの良かったな。目黒が沢村に特別目をかける理由があるんだろうか。目黒、殴った後に一瞬笑ってるシーンがあって、そこがめちゃくちゃかっこよかった。沢村、確かにしたことはしたことなんだけど、ああいう状況において弱点として利用されうるもの(放っておけない女性)がいることの難しさってあるよな…ていうか沢村の姉ちゃんも怖い追い込まれ方だったなーと思って、千紘が攫われるのもあいまって、あそこは中々沢村に同情的になってしまった。やっぱりあの世界の構造が怖いよ。圭吾、めちゃくちゃかっこよかったし殴られた傷だらけの顔で笑うシーンの迫力すごかった。あそこであの笑い方されたらやば!ってなるよな。長いもの振り回してる人が狭いところでも強いのかっこいい。太鼓持ちっぽかった啓二が、爆羅漢との抗争でちゃんと強いの、結構ときめく。千紘ちゃんって呼ばれがちな千紘を、啓二が「千紘」呼びしてるのもよかった。そして、私は斬人で将吾が一番好き……もちろん賢三と戦うシーンもかっこいいし、要が目を覚まして泣くシーンも好きなんだけど、ガソリンスタンドでタバコ吸おうとする要を止めるシーン、好きです。

・爆羅漢、すべてにドン引きなんだけど、耳削ぎって戦国時代とかの話じゃないの!?と思って耳削ぎが一番衝撃だった。作中におけるラスボス的な存在の技が寝技なの、最初は地味では?と思ったけど、戦う相手や見ている観客もよくわからないうちにじわじわ戦況が悪くなっていく怖さがあって、不気味でよかった。蛇みたいだなと思う。ネイバーフッドの張川、リアルにいそうな怖くて嫌な人でそれも良かった。あの人が一番私のいる世界でもエンカウントしそうな(そしてその中でも結構)嫌な人だな…と思う。

・千紘、気の強さや凛々しい振る舞いの理由に、ちゃんと兄の死やそれを受けて自分の中で深めたであろう信条があるのがよかった。ひやひやするような場や状況に身を置きながら、普通の女の子でいる日常を決してはみ出ないように努めている人な気がして(喧嘩を止めに入るために、不良の溜まり場になっているボウリング場でのバイトを選ぶ・社会的な良し悪しとして不良を語るのではなく自分の好みとして喧嘩や不良が嫌いだ、優しく気遣ってくれる方がかっこいい、と語る・死んだ総長の妹として担ぎ上げられるようなことはしない)、そういうアウトにならないようにしながら自分の意志を通している人が達也の視界にいるのは、達也にとって良い影響を及ぼすだろうなと思う。捕まえられて、これみよがしに斬人や達也の前に引っ張り出されるシーンの、申し訳なさそうな「助けて」が胸に来た。斬人幹部たちも出揃う中、あそこで特別に達也の名を呼んで助けを求めたのは、達也が千紘を元気付けようと壁に頭突きしても倒れなかったシーンあってのことだという気がする。達也と千紘、これからもっと仲良くなれるんじゃないかなと思わされた。

・アクションシーンはずっとかっこよくて目を奪われっぱなしだった。すごい(としか言えない)。身軽そうな人のアクションは踊るみたいで見ていて本当に楽しいし、重さのありそうな人の動きは重さがきちんと感じられて、殴られて壁や地面に人がぶつかるシーンとか、途中何度か思わず座席に身を埋めてしまった。どこかのシーンで、頭を殴るときに立つ音が本当に重くて、これもし現実だったら音の発出元の人死んでるだろうな…と思わせるくらいの音で、身が竦んだ。良かった。

・石戸刑事の物言い、むかつくけどこの通りのことを思って生きている人は社会にごまんといると思っていて、このキャラクターは不良に対する社会的な偏見の代弁者という立ち位置の人物だと思っていたので、事態を大きくしてから逮捕に踏み切る、という石戸刑事の企みが部下によって批判される(そして職務上の処分を予感させる)形で終わるのにびっくりした。個人的には、石戸に関してこういう形の言及がなく終わったとしても「後味が悪いな…」という感想を私は抱かなかったと思う。

・ヤンキーものを見るのは初めてだし、あんまり殴ったり蹴ったりを楽しむ素養もないのでどきどきしながらの視聴だったけど、面白かった!原作知らなかったけど全然話は分かって、親切な作りだと思った。続きも気になる。

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