■【安倍政権】このタイミングで消費増税は「危険な賭け」だ~民間の消費が減少するのはほぼ確実~PRESIDENT 2019年10月4日号 飯田泰之 明治大学政治経済学部准教授
■【安倍政権】このタイミングで消費増税は「危険な賭け」だ~民間の消費が減少するのはほぼ確実~
PRESIDENT 2019年10月4日号 飯田泰之 明治大学政治経済学部准教授
https://president.jp/articles/-/30041
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・税率を上げたとたん、経済が腰折れした
19年10月に予定されている消費税率引き上げでは、およそ6兆円の税収増が予想されています。
ただ税率引き上げに合わせて軽減税率が導入されるので、その分は減収となり、トータルでは年間でおよそ5兆~6兆円弱の増収となるでしょう。
過去数年の流れから見て、この程度の税収増は、今後2~3年程度景気を安定させられれば、自然増で十分、賄えるはずです。
逆に税率引き上げによって景気が落ち込めば、増税しても思ったほど税収が伸びなかったり、かえって税収減となる可能性もあるのです。
当たり前ですが、増税は税収を増やすために行います。
何のための消費税率アップなのか、これでは元も子もありません。
日本の輸出は現在、2割が米国、2割が中国ですが、日本にとってのこの2大マーケットはどちらも先行き不透明な状況にあり、内需も力強さに欠けています。
そんな景気の先行きが見えない状態で、19年10月に消費税率引き上げを強行すれば、景気を一気に暗転させてしまう契機となる可能性はかなり高いと見られます。
にもかかわらず、2~3年程度の財政再建の前倒しを狙って消費増税を実施することは、きわめて危険な賭けであり、かえって財政再建を遠ざけることになりかねません。
ほかでもない14年4月の消費増税を見れば、その懸念がよくわかります。
12年末の第2次安倍内閣発足後、13年の実質GDP成長率は前年比で2.0%、14年に入っても1~3月の実質GDP成長率は前期比3.9%(年率換算)と絶好調でした。
ところが14年4月に消費税率を引き上げたとたん、4~6月は前期比マイナス7.2%まで一気に下落。
好調だった日本経済は、完全に腰折れしてしまいました。
財務省では「少子高齢化の影響」などと解説しているようですが、少子高齢化は何も14年に始まったことではありません。
あくまで消費税率引き上げの影響を認めようとせず、現実から目を背け続ける財務省の姿勢は、理解に苦しみます。
・8%→10%のマイナス影響はGDP2%分
この当時の家計の消費支出額税率引き上げを調べてみると、駆け込み需要とその反動を除いた名目支出額には、増税前後で大きな変化がありません
。
これは、家計の実質的な消費が、消費税率の増加分だけ減ったことを意味します。
この事実は、「日本人の日常の購買行動において、税率にかかわらず品目別の支払額が固定されている」ことを示唆します。
・「名目値への釘付け」心理
多くの人は買い物の際、「スーツは5万円まで。ランチは1000円まで」という具合に、予算を決めています。
それは消費税が上がったからといって「スーツは5万1000円まで。ランチは1020円まで。飲み会は5100円まで」には変更されないのです。
逆に、税率が上がった分だけ質を落としたり量を減らしたりして、金額の制限をできるかぎり守ろうとします。
私は購買行動におけるこの傾向を、「名目値への釘付け」心理と呼んでいます。
今回の消費税率引き上げについては、「引き上げ幅も2%と小さく、影響は軽微である。
駆け込み需要が少ないことからもそれがうかがわれる」と主張するエコノミストが多いようです。
私個人はそうした見方には同意できませんし、「影響は軽微」と主張する根拠も理解できません。
消費者の「名目値への釘付け」行動に変化がない以上、このままでは、14年の増税時と同様、年間5兆~6兆円と見られる税収増分だけ民間の消費が減少することは、ほぼ確実です。
政府では消費増税の景気への悪影響を回避するため、たとえば「キャッシュレスで購入した商品について、買値の5ないし8%をポイントの形で還元する」といった施策を打ち出していますが、残念ながらこの施策は、景気対策としては機能しないでしょう。
なぜなら、いくらポイントで後から還元しても、消費増税のネガティブ・インパクトの最大の要因となっている「名目値への釘付け」行動には影響を与えられないからです。
もらったポイントは後日、消費に使われることになりますが、消費者がそれを追加支出に充てるかどうかは疑問です。
むしろ「予定していた消費金額の一部をポイントで賄い、支出額を減らす」行動をとる可能性が高く、多くの人がそうした選択をすれば、ポイントバックはまったく消費支出の拡大に結びつかないことになります。
通常、こうしたネガティブ・インパクトは、中央銀行の金利引き下げなどによって一定程度相殺されます。
しかし、もう下げようのない今のゼロ金利下では、金利というクッションのない状態でネガティブ・インパクトがかかるわけで、それは波及効果を生み、5兆円の消費支出の減少はトータルでは2倍の10兆円程度、GDPにして2%分ものマイナスを経済に与えるでしょう。
現在の日本経済のベーシックな成長率は年率2%以下なので、19年度はマイナス成長に陥ると予測されます。
消費増税とはそれほどまでに大きく景気を失速させ、皮肉にも財政再建を妨げるものなのです。
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このタイミングで消費増税は「危険な賭け」だ~民間の消費が減少するのはほぼ確実~
PRESIDENT 2019年10月4日号 飯田泰之 明治大学政治経済学部准教授
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