若者の情熱はみていて気持ちがいいことを知った
若者が考えつくようなことは、もう既に過去に誰かがやりつくしている。その結果が現在の世界であり、企業などの組織である。商業アニメ制作という業種はそもそも狂気から生まれている。
現在諸悪の根源とされている制作委員会方式も、視聴率がとれるからスポンサーが集まりアニメが制作されるというテレビアニメビジネスモデルから脱却し、視聴率に依存しないビジネスモデルを構築しようとした打開策であった。その成功例が『新世紀エヴァンゲリオン』である。
いわゆる『深夜アニメ』がここまで裾野を広げ、多様化したのは制作委員会方式の導入によって、企業がアニメのIPの権利を得て関連グッズを販売してマネタイズするという収益源の多様化による。これにより、ニッチな作品でもアニメ化することが可能になったのである。
一方で、ジブリがオリジナルの映画アニメだけを作り収益化をするというビジネスモデルをとれたのは、徳間書店という巨大なパトロンがいたからだ。
先日公開された『君たちはどう生きるか』が初のジブリ1社の費用で制作した作品で、それまでは少額出資という姿勢を貫いていた。
作家主義と商業主義の折衷案として『鬼滅の刃』でのアニプレックス・集英社・ユーフォテーブルの3社による制作委員会方式で形成された方式が生まれた。
自己負担する代わりにテレビ局や広告代理店を委員会に入れず、そうすることによって大きな利益を得ることができる。
もちろん、失敗したら自己負担した金銭が負債となるので自己責任の要素が強い。
ここまで『エンタメビジネス全史』を元にアニメビジネスについて概観してきたが、要は若者が考えつくようなことはもう既に過去に誰かがやってきているということである。個人の作家が作家主義でありつつ商業性を保つには宮崎駿のように自身の才覚に投資してくれるような巨大なパトロンを見つけるか集団で集まって(=スタジオに就職)かしないと、そもそもとしてアニメで食えない。
ただ、徳間書店のようなパトロンが見つかる可能性は0ではない。若者の挑戦は得てして無知による無謀さと無鉄砲によるものの、しかし全力で挑戦する姿は見ていて気持ちがいいものである。そこにこのような現実を突きつけるのは野暮というものだろう。
<脚注>
中山淳雄『エンタメビジネス全史』日経BP、2023
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