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生き物の命名と変な名前の生き物の紹介

※ 本記事は某所のアドベントカレンダー企画用に執筆されたものです。
※ 嘘はないようにしていますが、わかりやすさを重視して厳密さに目をつぶっている部分が多いです。
※ クラゲと虫の写真があります

0: はじめに

皆さんこんにちは。カニです。
今回は生き物の命名について説明してなけなしのサイエンス成分を満たしたあと、変な(珍しい)名前の生き物を紹介していきます。
ググれば出るような情報が多いですが、こういう機会がないとそもそもググらないという方に楽しんでいただけると幸いです。

1: 生き物の命名

皆さんは水族館に行ったことはあるでしょうか?
水族館経験者の多くは傘に四つ葉のクローバーのような模様をもつクラゲを見たことがあるかと思います。これはミズクラゲと呼ばれるクラゲです。

ミズクラゲ (筆者撮影)

この「ミズクラゲ」という名前は日本での呼び名(標準和名)で、
英語では"Moon jellyfish"と呼ばれます。
このように、言語によって生き物の名前は異なります。
これを共通で定めるために学名というシステムが存在します。

学名はラテン語2語で定められます。1単語目を属名、2単語目を種小名と呼び、属名は大文字で、種小名は小文字で書き始めます。このシステムを「二名法」といいます。イタリックで表記します。
例えば、ホモ・サピエンスという名前を聞いたことがある人も多いと思いますが、これは$${\textit{Homo sapiens}}$$と書く、ヒトの学名です。
$${Homo}$$が属名で、$${\textit{sapiens}}$$が種小名ですね。
(動物としての人間はカタカナでヒトと書きます)

他にも、ティラノサウルスやTレックスという呼び名を聞いたことがあるかと思いますが、実はこれはずばり学名で、$${\textit{Tyrannosaurus rex}}$$と書きます。Tレックス($${\textit{T. rex}}$$)の方は属名を一文字にして種小名とくっつけるという方式に則った呼び方なわけです。

2:変な学名、珍しい学名

ここからが本題です。
学名の中には様々な理由でなんじゃそりゃ、となるような命名がなされたものがあります。例えば
「ゴリラの学名はゴリラ・ゴリラ($${\textit{Gorilla gorilla}}$$)である」
というトリビアを聞いたことがある方もいるかも知れません。
しかしそんなものは序の口です。

2-1: 有名人や学者に関連して命名されるパターン

実在の有名人や、著名な学者に学名を贈る(献名)ことがあります。

ヘテロポーダ・デヴィッドボウイ ($${Heteropoda}$$ $${\textit{davidbowie}}$$)

名前で分かる通り、ロックミュージシャンのデヴィッド・ボウイにちなんだ命名です。元の文献には

” who has been in early years of his career sometimes as painted as the frontal view of the head of this new species”

Senckenbergiana biologica, Jager, 2008

とあり、彼の昔の見た目がこのクモを正面から見たときに似ていると書かれています。"David Bowie spider"で画像検索すると顔をペイントしたデヴィッド・ボウイのそれっぽい写真が出てくるのですが、どのくらい似ているかは皆さんでご確認ください。

Heteropoda davidbowie (Seshadri.K.S wikipediaより CC BY-SA 4.0 DEED)

ネオパルパ・ドナルドトランピ ($${\textit{Neopalpa donaldtrumpi}}$$)
2017年に記載されたガの一種。頭部の黄色みがかった白い鱗粉がアメリカのトランプ元大統領の髪型と似ていることからこの名が付きました。

Nazari, 2017 (Zookeys; DOI :10.3897/zookeys.646.11411, CC BY 4.0)
本種を特徴づける頭部の鱗粉。ぜひ本人の写真と見比べてください。

ちなみに人名を学名に付ける場合、最後に"-i"をつけるのでトランピになっています。

アキヒト属(Genus $${Akihito}$$)
ハゼ研究者でもあらせられる明仁上皇陛下の名前がつけられたハゼの属(近縁種をまとめたグループ)が存在します。よく「陛下の論文は連絡先が東京都千代田区千代田1-1 皇居になっている」というのが話題になりますが、属名を贈られるくらい著名な研究者でもあるんですね。

これらの他にも、昆虫学者が新種のアリに妻や子供の名前をつけたというケースもあります。もし虫に自分の名前がついたらどう感じるかをぜひ皆さん考えてみてください。

2-2: エンタメ作品などに由来するパターン

実は学名の縛りはゆるく、既存の映画や小説に由来して名付けられるパターンも存在します。

アンピュレックス・ディメンター($${\textit{Ampulex dementor}}$$) 
本種はタイで発見されたハチで、皆さんお気付きの通りハリーポッターシリーズに登場する吸魂鬼(ディメンター)にその名を由来します。見た目は黒とオレンジで美しいハチなのですが、ゴキブリに毒を注射して神経の伝達を阻害し、生きながらゾンビのようにしてしまうという生態を持っています。この状態が「ディメンターの$${\textit{kiss}}$$」にちなんでいるのでしょう。
その後ゴキブリはハチの巣に連れて行かれ、卵を産み付けられて孵った幼虫に生きたまま内側から……ね?

Ampulex dementor, Ohl et al., 2014 (Plos One, CC BY 4.0)

しかし、この生態どこかで聞いたことがありますよね?そのとおりです。本種はエメラルドゴキブリバチ($${\textit{Ampulex compressa}}$$)と同じ属に分類される種類なんですね。もし初めて聞いたという方がいましたら、Youtubeでエメラルドゴキブリバチと検索していただくと上記した一連の流れを紹介する動画がヒットするのでぜひご覧ください。(割りとエグいので注意です)

2-3: 日本語だとおかしな意味になってしまうパターン

最後に紹介するのは、本来ちゃんとした理由に基づいて名付けられているにも関わらず日本語的には変な意味になってしまうパターンです。
日本語の「せーの」がイタリア語では「おっぱい」という意味になったり、「乾杯!」をイタリア語では「Cincin!(チンチン!)」と言うのと同じようなケースですね。

ボッキディウム・チンチンナブリフェルム ($${\textit{Bocydium tintinnabuliferum}}$$)

ボッキディウム・チンチンナブリフェルム?

ボッキディウム・チンチンナブリフェルム!?

これはもう何も言う必要はないかもしれません。
ボッキディウム属はツノゼミと呼ばれる昆虫の仲間です。ちなみにツノゼミという昆虫は、特徴的なヘルメット構造を持つことで有名です。多様性があって面白いのでぜひ検索してみてください。
(写真はボッキディウム・チンチンナブリフェルムかは確定ではなく、少なくともボッキディウム属に属するツノゼミの写真になります。)
チンチンナブリフェルムとはラテン語で「鈴」を意味する「チンチンナブルム(tintinnablum)」「を持つ(-fer)」という意味になります。ぜひチンチンナブルムの方も画像検索をしてみてください。

Bocydium 属 (Sergio Monteiro, wikipediaより)

3:終わりに

いかがでしたか?
少しでも多様な生き物とその命名について面白いと思ってもらえたり新しく知ってもらえたりしたら幸いです。
今回は紹介できませんでしたが、スター・ウォーズにちなんで名付けられた生き物やビヨンセにちなんで名付けられた生き物などもいます。
ぜひ調べてみてください。

4:参考文献


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