彼の犬 #2

前回までのあらすじ
犬のタロウを散歩させているとき、
ふいに、犬と心中しようかと思った。自殺する人はこんなふうに、ふいにそうなるのだろうと思う。周囲の人たちが急に引いてかつての親切もいっときのもの。結局一人捨てられたという感覚が刺さる感じ。
 
 彼の犬 第2回 
犬を連れてきたのは彼である。8匹生まれ、7匹は里子に貰われていった。1匹残された仔犬を、知人に呼ばれて見に行ったら可愛くて貰ってきた。
「一度抱っこしたらダメだね」
「抱いたの? 抱いたらダメだよ」
 見るだけで、もう手放せない可愛さだから連れ帰る気持はわかる。
 生まれたばかりの仔犬はそうしてわたしの家にきた。他の7匹もばらばらにどこかで育っている。きょうだいの縁はDNA.血統のみだが、それを確認することはできない。その孤独が哀れだったが仔犬には、そのことさえ意識がないのだった。
 その場の餌と寝床と寂しくないだけの人との関わりがあればいいのである。
 そのまま成犬になり、番犬の役を果たし、一度の病気もなく、トイレの粗相も一度もなく、視力のよさと賢さでわたしを驚かせた。
 家の中から庭の蛇を見つけて吠え立てときは驚愕した。締めたガラス戸越し、しかも庭から1メートルほど高いデッキのこちら側から庭にきた蛇を見つけたのである。さらに、蛇は花壇を縁取る煉瓦の隙間に20センチほど身を現しているだけだった。
 タロウの視線のその先を辿ってようやく吠えている原因をつきとめたわたしは蛇を嫌う前に、タロウの視力と賢さにひれ伏したのだった。
 毎年の予防接種は狂犬病と9種混合ワクチンにフィラリアに飲み薬である。
 注射のたびにタロウは奇声を上げる。それが嫌でフィラリア検査を省略したいが、動物病院の女先生は笑って血液検査を実施する。検査料稼ぎではないだろう。
 そしてタロウは10歳になった。





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