年末プレラの真実

君は"プレミアラッシュ"を知っているか?

あの"界隈民"とかいうやつらが、世界的動画投稿SNSであるYoutubeのプレミア公開機能を利用し、主に新しく作った音楽作品を中心として互いに公開し合う……
ああいや、説明するまでも無いか。


我々は日々のクソみたいな業務を行う傍、"界隈"と呼ばれる若い創作者たちのコミュニティを監視している。

それは毎年年末に行われるプレミアラッシュである年末プレミアラッシュ……長いな。

ここから先は"年末プレラ"とでも呼ぼう。

それが滞りなく進行し無事に終了するかを確認する為だ。


なんたってこんなこと続けているのか。

我々には他にやるべき事があるんじゃないか。

そう思うのも無理はないだろう。

それが君がここに配属になったときから抱いている疑問の一つであることは承知している。


君は己の常識を疑うことができるか?


まあ日々の雑務に慣れてきたのであればそこまで難しくもないだろう。

彼らが、年末に行う行事、そう、"年末プレミアラッシュ"こそが年を進める鍵になっているのだ。

今のところ確認できる世界で唯一のな。

何を言っているのか分からない?

わかりやすく言い換えるとこうだ。


「彼らは年末に"プレミアラッシュ"を行うのではなく、彼らが年末に"プレミアラッシュ"を行うことで年が終わりを迎えている」

ということだ。


混乱するのも無理は無い。
順を追って説明しよう。


有史以前から人類は地球が公転軌道上のある位置に来るたびに特別な"儀式"を行い続けてきた。

毎年、必ず、欠かさずにな。

儀式を行なうのは地球上のあらゆる地点に存在する、いや、今となっては"存在していた"数多の民族だ。

その儀式は場所によって大きく異なるものであるが、その全てが少なくとも


1、多くの人々が集まり、各々が新たに作り出したものを持ち寄ること
2、この儀式がそれの初披露になること
3、披露の時間をあらかじめ定め、出来るだけ被らないように順番に公開すること


の3つの条件を満たしていた。

まあ他にも条件が複数あるようだが完全には解明されることは無いだろう。

なぜそんなことが行われていたのか、それは実際に完璧な過去行きタイムマシンの理論を組み立て現地突撃インタビューでもしなけりゃ分からない。

そんなことは叶わぬ夢物語であることは明白だろう。


きっと彼らは本能的に気づいていた。

その"儀式"を行わなければ何か"恐ろしいこと"が起こると。

それが何かは彼らにも分からなかった。

だがその漠然とした、しかし確かな不安を拭う為に、儀式はそれぞれの場所で独自に確立されたのだろう。

そして一度たりとも途切れなく続けられてきた。あの年までは。

此の世のありとあらゆる文化はいずれ消えて無くなる。

多くは記録にだけに残る足跡となり、それ以外は完全に消えてなくなる。

跡形もなくな。


あの年、ついに儀式を行なっていた最後の民族の、最後の生き残りたちが我々の努力も虚しく自然災害によって滅んだ。

自然は美しく我々を包み込むが、時に悍ましくその積み上げてきたものを破壊して過ぎ去っていく。

そしてまた再び笑顔で私たちを見守りはじめる。

我々は出来る限りあらゆる天変地異に備えた。
人類の想定を遥かに超える大地震、津波、火山の噴火、豪雨、豪雪に干ばつ。

だがそれは我々の我々の嫌な予感の通り、予想可能な域を遥かに凌駕するものだった。


年が明けなかった。


我々にも何が起きているのか分からなかった。

人類を含めた全ての生物は普通に生命活動を継続していた。

だが、ありとあらゆるものが停止していた。
物理的に位置が変化しない、という訳では無い。

より概念的な停止と言うべきか。


変わらなかったのだ。
⬛︎⬛︎/12/31/23:59から。


一晩で枯れるある種の花は枯れずそのまま残り続けた。

鳥は凍える寒さの闇夜に眠り続けていた。

高山に吹き荒れる風は止んだ。

そして月はあの場所から動かなかった。


この為す術のない状況に我々は絶望した。


いや、結果から言おう。
気づく事が出来ないだけで、微かに進んでいた。
ゆっくりと、確実に。


永遠とも呼べる静寂の後、気づけば我々は
⬛︎⬛︎年にいた。


またしても何が起こったのか分からなかった。

我々は必死になってありとあらゆるこの世界の変化を調べ、その年末に初めて行われた行事を全て洗い出し、あの錆び付いて殆ど動かない時間の中で進み続けていた痕跡の残っているイベントを見つけた。


そう、それこそが年末プレラだった。


我々は年末プレラの規模を拡大する為に奔走した。

時には誰かを傷つけるような工作にも手を染めた。

これで再びあの時間災害が起こる可能性を潰す事が出来る、という確証はなかった。

だがそれに賭けることしか選択は残されていなかった。

そして、次の"年末"が訪れた。

年末プレラは前の年よりも洗練されたものとなった。


そして、何事もなく年は明けた。


かくして我々は貴重な空き時間をあいつらの、いや"界隈民様"の監視とおままごとに割かなきゃいけなくなったわけだ。

なぜ我々で儀式を行わないのか?

無論我々も同じようにプレミアラッシュの模倣を試みた。

だが、それを行い、効果が確認出来るのは年に一度だけだ。

そして今までの数回の試みは全て効果が無いことが調査から判明した。

先程儀式を満たす条件を3つ挙げたが、他にも見えない要素があるんだろうな。

それが全部白日の元に晒してあのクソスーパー天変地異を止められるようになる日が来るまでは、年末プレラが唯一の確実な鍵ってわけだ。

少々長くなったが分かったか?

おや、上から次の仕事の命令が来てるな、私はここで去らせてもらう。

引き続き、あいつらの監視を頼んだぞ、新人くん。

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