ユヴォ“後マ”のその後を捏造・改訂版、エピローグ

1年後

式典を終えたおれたちはバルコニーへと足を進めた。

おれたちが立つバルコニーの下には大勢の人が集まっていた。
式典に参加した人たちも、次の晩餐会に出席する来賓客も。

もちろんその中には
渋谷家の3人や、朝から忙しくしてたグウェンダルやギュンター、村田、コンラッド、ツェリ様、グレタ、ヨザックも。

帰ってきたばかりのヘイゼルさんの姿もある。
メイドさんや兵士の人にも、手を止めて出てきてもらった。

「ヴォルフ、準備は良い?」
「ああ」

挨拶を終えたおれはヴォルフラムに声をかけた。

繋いだ手を強く握ったまま、おれたちは目を閉じる。

集中していると水の力が溢れてくる。

おれは繋いでない手を翳し、水の玉を現出させた。
力を更に込めると水の玉から龍の顔が現れた。

龍の頭が水の玉から逃れるように上へと上がる。
龍の頭が通った後の水滴は龍の体に変わり、血盟城の上を泳ぐ。

龍が泳ぎ始めると、ヴォルフラムの手から火の玉が現れ、獅子の顔に変化した。
ヴォルフが更に力を込めると獅子の体が出来上がり、龍の後を追うように駆けていく。

龍の体の上を駆けるように獅子が走っていく。
やがて獅子は龍の頭にたどり着いて、定位置かのように止まった。

獅子を頭に乗せたまま龍は血盟城周辺を泳ぐ。

おれとヴォルフラムは集中を保ったまま、繋いでない方の手を恋人繋ぎで握り合う。

獅子が方向転換して、龍の頭上から背に向かって全速力で駆けていく。
おれは獅子のスピードに合わせて、龍の姿を頭から順に雨を降らせるようにして消していく。

雨のように消えた龍と獅子
代わりに現れたのは虹だった。

おれたちは同時に目を開けて笑い合う。
バルコニーの下では歓喜の声がしていた。

おれたちはその声を聞きながら、自然と口づけを交わした。

「ヴォルフラム、愛してる」
「ユーリ、好きだぞ」
「ちょっ、愛してるじゃないの?!」
「ハハッ…んッ。」
ヴォルフラムは悪戯が成功したように笑い、触れるだけの口づけをして、至近距離で可愛く笑って見せた。
「もちろんぼくも愛しているぞ、ユーリ」
「ったく…。後で覚えてろよ」
「さぁな、もう忘れた」
おれたちは笑い合い、もう一度、確かめ合うような口づけを交わした。

晩餐会が終わり、風呂も済ませたおれたちは
魔王部屋のバルコニーで肩を並べ空を見上げていた。

「みんな、喜んでくれて良かったな」
「ああ。来年からもする事になりそうだがな」
「ハハッ、確かに。でも良いじゃん、毎年恒例にしていけば」
「そうだな。ぼくたちの記念日は“両親の日”…両親でなくとも、誰かに思いを馳せる日になると良い」

「だな、1人じゃ生きていけないからな、おれたちは。だからさ、ヴォルフ。いつもありがとうな」

「ユーリもなっ、…ぁりがとう…」

「我が伴侶が素直に言える日はいつになるやら」
「フンッ…行動で示してやる」
そう言ったヴォルフはおれの手を引き室内へと歩き出す。
入った途端に振り向いて、おれの首に抱きつき、唇を重ねてくる。
驚いてなすがままになっていると、更に深く舌を絡めてきた。
そして唇を離すと小さな声で「ありがとう」と呟いた。

おれは少し笑って、ヴォルフを抱き上げた。

腕の中で眠るヴォルフの顔を眺めながら

9月30日(今日)が
“ありがとう”を伝え合う日になれば良い。

そう思いながら、おれも目を閉じた。