カイ書林 Webマガ Vol 12 No10

 このメルマガおよびWebマガ は、弊社がお世話になっている先生方に毎月配信します。毎月「全国ジェネラリスト・リポート」と「マンスリー・ジャーナルクラブ」を掲載しています。毎月「全国ジェネラリスト・リポート」と「マンスリー・ジャーナルクラブ」を掲載しています。

【近刊案内】

東 光久編集:「患者力」を引き出すスキル・ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ③)

A5 204ページ 定価2,200円 11月20日発売 ISBN 978-4-904865-59-0

【好評発売中】

1 金子惇・朴大昊監訳「医療の不確実性をマッピングする」

2 島田長人編集:急性腹症チャレンジケース―自己学習に役立つ18症例(日本の高価値医療シリーズ⑦)

3 石丸裕康・木村琢磨編集:ケア移行と統合の可能性を探る(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 15)

4 樫尾明彦・長瀬眞彦:問診から選べる漢方薬ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ②)

5 徳田安春:新型コロナウイルス対策を診断する 

6 沖山 翔・梶 有貴編集:ジェネラリスト× AI 来たる時代への備え(「ジェネラリスト教育コンソーシアム」vol.14)

7 杉本俊郎著:内科医の自己学習ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ①)

8 筒井孝子著:筒井孝子論考集 地域包括ケアシステムの理論と政策

9 本村和久編:コミュニケーションと倫理のハイバリューケア―自己学習のための23症例(日本の高価値医療シリーズ⑥)

10 徳田安春著:医師が沈黙を破るとき


■お知らせ:2022年度の「ジェネラリスト教育コンソーシアム」は、オンラインで行います。

・第18回:「ホスピタリストは医療経済にどのように貢献できるか?」(2022年1月23日、世話人:梶 有貴、長崎 一哉 各先生)

・第19回:「チーム医療を本音で語ろう」(2022年5月、世話人:森川 暢、大浦 誠各先生)

* Mook版ジェネラリスト教育コンソーシアムが、科学技術振興機構(JST)の「J-GLOBAL」に収載されました。すでに収載されている「医中誌」とともにご利用願います。


全国ジェネラリストリポート

培ったジェネラルマインドを教育、研究、地域社会活動において実装する

桑原 祐樹 

鳥取大学医学部社会医学講座環境予防医学分野、助教
鳥取県公衆衛生アドバイザー

 私は長崎医療センター家庭医療専門医研修を修了し臨床医を務めた後、教育・研究の分野で研鑽するため大学院へ進み、現在の所属で務めています。

 業務の中心は教育(公衆衛生・疫学・地域実習)、研究、地域社会活動です。

 大学院在学中に英国へ留学し、日本と英国のプライマリケアの公衆衛生上の役割や位置づけについて学びました。特に英国では、根拠に基づいた医療政策のために質的研究を重要視し、量的研究も可能とするデータ構築がなされている点が衝撃でした。

 現在、飲酒や喫煙の疫学研究に携わりつつ、県の国保データベース等を活用したヘルスサービス研究に挑戦しています。臨床医として、個々の患者さんに質の高い医療を提供することを追求してきましたが、今後は地域レベルで適切な医療サービスが効率的に公平に届けられているかを追求し、学術的な知見を発信していきたいと考えています。

 地域での医学教育実習に携われることも今の仕事の魅力です。生物心理社会的視点を持ち、急性期から終末期までのケアを意識し、多職種と連携し、全人的・包括的な医療を提供できる医療従事者の育成を目指す上でこれまでの経験が活きていると感じます。教育の方略を工夫し、将来様々な専門分野で活躍していく学生と地域で学んでいます。

 コロナ禍となり、現場で診療や運営に従事することの尊さを日々考えさせられます。今後地域で課題や疑問を抱えられる先生方と、地域活動や臨床研究をご一緒できると嬉しく思います。


マンスリー・ジャーナルクラブ

日本における社会経済的格差とCOVID-19のもたらす転帰の関連

黒田 萌

富山大学附属病院総合診療科 / SUNY Upstate Medical University MPH Program

Yoshikawa Y, Kawachi I. Association of Socioeconomic Characteristics With Disparities in COVID-19 Outcomes in Japan. JAMA Netw Open. 2021 Jul 1;4(7):e2117060. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.17060. PMID: 34259847; PMCID: PMC8281007.

背景:欧米の先行研究では社会経済的因子とCOVID-19の転帰の間に関連があることが示されているが、アジア圏では国レベルでの分析は行われていない。社会経済的因子がハイリスクとなり得るかどうかを示すことは、ワクチンの優先接種対象に社会経済的弱者も含むなどの介入にも関わる重要な課題である。

目的:日本における社会経済的因子とCOVID-19の転帰の格差の関連を分析する。

方法:横断・県別・生態学的研究で、使用したデータはすべて公的機関発表のものである。COVID -19累積確定患者数・死亡者数を疾病負荷の指標とし、2021年2月13日までの日本国内47都道府県のCOVID -19確定患者数と死亡者数、人口、社会経済的要因のデータを解析した。社会経済的因子は、複数の公的データから抽出・統合したもので、変数として、平均年間世帯収入、ジニ係数、公的扶助受給者の対人口割合、学歴、失業率、人々と濃厚接触しやすい職業(医療、小売業、運輸交通・郵便、飲食業)に従事している人の割合、世帯の密集度、喫煙率、肥満率を用いた。各変数を五分位に分類した。都道府県別共変量として高齢化率、人口密度、人口当たりの急性期病床数を用いた。Poisson回帰モデルを用いてCOVID-19罹患率比・死亡率比と社会経済的要因に関連があるかを検討した。COVID-19アウトカムと社会経済的因子の関連を算出したものをモデル1、それを都道府県別共変量で調整したものをモデル2、さらにモデル2を世帯収入(地域別の物価格差で調整)、ジニ係数、公的扶助の受給率、学歴、失業率で調整したものをモデル3とした。解析にはR(version 4.0.3)を用いた。

結果:日本の全人口を含む全47都道府県の分析を行った。2021年2月13日時点で、412,126確定例と6,910死亡例が報告されていた。COVID-19の調整罹患率比・死亡率比は以下の地域で、各因子が最も高い/低い地域と比べて上昇していた。
・世帯収入が最も低い地域(罹患率比: 1.45 [95% CI, 1.43-1.48] と死亡率比: 1.81 [95% CI, 1.59-2.07])
・公的扶助受給率が最も高い地域(同1.55 [95% CI, 1.52-1.58] , 1.51 [95% CI, 1.35-1.69])
・失業率が最も高い地域(同1.56 [95% CI, 1.53-1.59] , 1.85 [95% CI, 1.65-2.09])
・小売業従事者の割合が最も高い地域(同1.36 [95% CI, 1.34-1.38], 1.45 [95% CI, 1.31-1.61]),
・運輸交通・郵便業従事者の割合が最も高い地域(同1.61 [95% CI, 1.57-1.64] , 2.55 [95% CI, 2.21-2.94]),
・飲食業従事者の割合が最も高い地域 (同2.61 [95% CI, 2.54-2.68] , 4.17 [95% CI, 3.48-5.03])
・世帯密集度が最も高い地域(同1.35 [95% CI, 1.31-1.38] , 1.04 [95% CI, 0.87-1.24])
・喫煙率が最も高い地域(同1.63 [95% CI, 1.60-1.66] , 1.54 [95% CI, 1.33-1.78])
・肥満率が最も高い地域(同0.93 [95% CI, 0.91-0.95] , 1.17 [95% CI, 1.01-1.34])
 また、潜在的媒介変数(世帯密集度、喫煙率、肥満率)の中で、県別共変量と他の社会経済的変数を調整した後も、高い喫煙率と肥満率は、高い死亡率比との関連を示した。

結論:本研究から、日本においても欧米に類似した社会経済的格差とCOVID-19の転帰の間の関連が見られ、社会経済的弱者であることはCOVID-19に対しても脆弱性を持つことが示された。他の国々でも多くの関連が示されてはいるが、そのメカニズムはまだ解明途中にある。先行研究からは、社会経済的不利と糖尿病や冠疾患など慢性疾患の有病率の関連や、炎症反応や免疫系との相関も可能性、また社会的脆弱性のあるコミュニティではソーシャル・ディスタンス維持の難しさ等も指摘されている。本結果をもとに、社会経済的弱者をワクチン優先接種対象者とすることなどの検討が望まれる。

コメント:話題となった論文でご存じの先生も多いかと思われたのですが、Generalistにとって大変重要なスタディであると考え選ばせていただきました。平均寿命が長年世界のトップレベルにある日本でも、国内の健康格差、その背景にある社会経済的背景の関連は大きな公衆衛生的課題の一つとなっています。これがCOVID-19においても顕著に関連していたことが示されました。Social Determinants of Healthを臨床家が意識し診療に取り入れることで、診療そのものの質改善、多職種連携による介入や、繰り返される入院の予防にも繋がると考えられます。自分も意識して行って参りたいと思います。

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近刊案内:東 光久編集 「患者力」を引き出すスキル・ツールキット

(日常診療ツールキットシリーズ③)

 この本は,医療者がもう一歩積極的にかかわるなかで「患者力」(Patient Empowerment)を引き出せるようになるスキルの数々を、使えるツールキットとして提供します.

・医療者は説明の仕方をトレーニングしよう
・話の流れを理解できないのか,言葉自体の意味が理解できないのか,分けて考える
・中学生でも理解できるレベルで話そう
・1 回限りの説明で解決しようとはしない
・よく使う医学用語を置き換えるトレーニングをしよう
・診療ガイドラインを患者さんに説明することは重要
・患者さんの言葉の意味をくみ取る努力をする
・医師に直接聞けないのは何がバリアになっているのかを確認しよう
・患者さんがヒントを与えてくれることもある

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