親子同姓は子供にとって必ず幸せか?

私は過疎地に近い田舎町に育った。
家より田んぼや畑、牛小屋豚小屋の方が多い町だ。
私の姓は割に珍しい名字で、そんな田舎ではまず同姓の人など親戚以外にはいない。

私の父はある仕事で出世街道をまっしぐら。
地元でも大変有名な人だった。
父がそんな存在だと知ったのはいくつの頃だったか。
物心ついたときには父の職場の近くに行くと
「お父さんがいるー!」「シッ!周りの人に聞かれたらアカンから黙りなさい」
いつの間にか知っていたのだろう。

自分の氏名を名乗る度に
「?ひょっとしたらお父さん、○○さん?」
「はいーそうですー」
父と同じ名字だとすぐに娘と分かるのだ。

それが無邪気に
「はい。そーですー」
と答えた時の周りの微妙な空気に気がついたのはいつ頃だったか。
多分「はい。そーですー」
と答えた後、
父は何時頃帰宅しているのか、
日曜は父は何をしているのか、
家ではどんな父親なのか、
仕事の話を家で何かしているか?何を話しているか?
根掘り葉掘り聞かれる事で
何となく気がつきはじめた時は小学校の時か。

そのうち、
「貴方はお父さんと全然似てないね」
「走るの遅いね。お父さんに習えばいいのに」

「あのお父さんの子なら理数系は得意でしょ?え?苦手?」
「お父さんに習えば?数学。成績あなた良くないし」
「お父さんはすごい人なのに貴方は・・」
「あなたもお父さんの後を継いで同じ仕事につかなきゃ!じゃー勉強頑張らないとね!」

いや。
私は確かに父の娘ではあるが、母の遺伝子も入って生まれているのだ。
父のコピーとして生まれ育つ訳がない。
そして父も帰宅したらただの父親だ。
私に自分と同職になることも求めてなどいない。
しかし、世間はそれを求め、比べるのだ。
そして母は
「アンタが何かしたらお父さんの恥になるよ」
うっかり休み時間はしゃいで先生に叱られても
・・・これも父の恥になるのかもしれない・・
私は名乗っては人目を気にしてばかりの子となった。

そのうち
「○○さんの娘なのにそんなことしたらお父さんが恥をかくよ」
「○○さんの娘とは思えないねー。」
「○○さんの立場が無くなるわぁー」
学校で先生が授業中に
「この問題が解けないとお父さんが恥をかくぞ」
・・別に非行に走ったわけでもない。
犯罪を犯した訳ではない。
しかし「○○さんの娘」
とフィルターをかけたらどんな事も
「あの人の娘なのに!」
となる。
そして何とか成績が上がると
「そりゃあの人の娘なんだから当たり前」
私の努力など誰も認めてはくれない。

私はだんだん名乗るのが怖くなった。
高校生くらいになったら
「○○さん?お父さんのお仕事は?」
嘘をつく事を覚えたが、
何せ地元の田舎の高校。
あっという間に「○○さんの娘」
広まる。
「アンタあの人の娘やな。私はアンタの父親に恨みがあるんや!」
そんなことは父に直接言って欲しい、と思いながら怒鳴られ続けたことも度々であった。

地元から離れた学校に進学し、やっとそれらから逃れ、のびのびした生活の中、
就職先をうっかり地元にした事で、
また
「○○さんの娘?」
が始まった。
女性社会の職で陰湿ないじめもある中、
「○○さんの娘」
は相手に取っては最強の武器になる。
「まー!こんな事して親の顔が見たいわぁ。あ、そうそう、○○さんだったわー」
「○○さんって有名人だけど子供の躾は出来なかったのね」

極めつけは。
父の職場の系列で事故が起こり、死者が出た。
父は責任者としてマスコミに
「二度とこのような事がないよう再発防止につとめ・・」
こっそり早めに出勤してすぐ職場の新聞の当該ページはこっそり抜きとり捨てたが。
ワザワザ新聞の切りぬきを持ってきて
「人殺しの娘っ!」

通勤に一時間半かかる所に転職するまでそれは続いた。

父に恨みはない。
娘にこんな思いをさせようとして職についたわけでもなく、仕事を頑張った訳ではないのだから。
珍しい名字も父に責任はない。

氏名を名乗れば即親が特定され様々な偏見になる。

「夫婦別姓だと子供が親子別姓になるから可愛そうだ」

いや。
同姓だからこそ起こる悲劇もあるのだ。
もし、私と父が別姓なら。
親子特定などされず。
もっとのびのびとした生活が出来たと今は断言できる。

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