「らくがき少女」第1話


日本のとある野鳥公園。鳥たちは羽を伸ばし、優雅に飛んでいる。鳥の色はすべてグレーである。そこに一眼レフカメラを持った人々が写真を撮っている。一人の少年がスマホで写真を撮っている。サイレンの音がどこからともなく、鳴り響く。少年付近にグレーのパトカーが止まる。中からグレーの制服の警備隊が3人出てくる。少年を取り押さえる。

景観警備隊A「こいつ、一眼もってねえぞ」
景観警備隊B「おい、お前何考えてんだ?親は?」

少年は背中から馬乗りにされ首を押さえられて話すことができない。

少年「うえ。あ、あ」

景観警備隊C「どいてやれ、話せないだろ」
景観警備隊A「はい」

景観警備隊Cはしゃがんで少年に手を貸し、座らせる。
少年は半泣きしている。鼻水が垂れていて、今にも服に落ちそうになっている。景観警備隊Cは微笑む。

景観警備隊C「少年。親御さんはどこに?」
少年「死んだからいない」
景観警備隊C「そうか。お家はどこだい?」
少年「ザ・ドール・オブ・アート」

警備隊3人は顔を見合わせる。

景観警備隊C「少年。そこはスラムって名前以外では呼ぶな。この国のルールだ。それとこの公園にも似たようなもんがある」

景観警備隊Cは付近の看板を指さす。そこには一眼レフを方からぶら下げていないと景観法に違反し投獄去れることになるという注意書きがある。少年は看板を見て俯いて泣く。鼻水が垂れ今にも服に垂れそうになっている。

少年「カメラを買うお金がなくて」
景観警備隊C「そうか」

景観警備隊Cは少年の肩に手を置いたまま看板をずっと見つめている。何やら悲しげに。

少年が服に鼻水を垂らす。

景観警備隊A「あ!こいつ!服に鼻水垂らしやがった。俺らを舐めてんのか」
景観警備隊B「景観法を2回も無視とは、いい度胸だ。よそもんにこの国のルールを叩き込んでやる」

景観警備隊AとBがものすごい勢いで少年に近寄っていく。景観警備隊Cは二人の様子をちらりと見る。立ち上がり、思い切り少年を蹴る。少年は遠くに吹き飛ぶ。人々はどよめき、少年を取り囲むように集まってくる。景観警備隊AとBもお互いに目を合わせ驚き立ち止まる。

景観警備隊C「いいか。少年よ。よーく聞け。この国は景観が命だ。ルールが命だ。それを破るようなやつに人権はいらないんだよ。この意味がわかるか?これは俺が決めてない。これがこの国のルールなんだよ。カメラをもって公園に来る。なければ入ってはいけない。何故なら景観にそぐわないからだ!スラムでもそれぐらいは教わるだろう?少年よ、お前は下手すると死刑だ。この国で景観法、景観警備隊の存在は絶対だ。それはスラムの奴らでもだ。知らないなんてことは通らない。わかったか!少年!」

景観警備隊Cは少し悲しそうな表情をして帽子で顔を隠す。景観警備隊A,Bはニヤニヤしながら少年を見ている。Cは少年に指をさす。少年は横たわって泣いている。

景観警備隊C「捕らえろ」
景観警備隊A,B「はい!隊長」

少年はA、Bに起こされパトカーに入れられる。

西暦2300年。日本では景観法の改正があり、建物や街並みはゴミひとつ、ほこり一つない清潔に保たれたものになっていた。色は汚れが目立ちにくい、グレーの色のみ使用可能であった。それは人が着る衣服から家の外観から内装までも。カメラをもって入らなければいけない公園に、持たずに入ると景観にそぐわないとして捕まる。捕まえるのは景観警備隊。通称灰色の騎士。ザ・ドール・オブ・アートの住人からは ”燃えカス” とよばれる。そして景観法が適用されない場所はある程度自由だった。街並みは200年前とほぼ変わらないが、所々に落書きがあった。そして落書きは多彩な色で表現はれているので住人もそれを良しとしていた。街並みはカラフルである。スラムは多少貧乏であるが、住人らで助け合っているのであまり不自由ない生活をしていた。スラムの外はその逆で物資は豊かだが助け合いがない、少し寂しい場所。人間もスラムとスラム以外では気性が違った。スラム以外の人間は、常に時間に追われセカセカと生き急いでいた。何かに追われるように。。スラムとは対照的であった。
そして、そのスラム(ザ・ドール・オブ・アート)では、稀に異質な能力を持った者が誕生するという伝承がある。その者は異常な感受性を身につけ、人の心に感動を与えるとされる。500年程前に一度現れ、日本を救いスラム街を作り、忽然と姿を消した。その少女がの生まれ変わりでは?と密かに言われる人物がいる。少女は100年に一度の逸材、狂人、獣、ラクガキ少女、様々なあだ名がつけられていた。町によくラクガキをする内気な少女。その少女は今ー

投獄されていた。
汚らしい牢屋にポツンと座る少女。髪は長く地面につきそうなほど。パッツン前髪は鼻先まで伸びているので目が隠れている。肌は青白い。グレーの囚人服を着ている。隣の牢屋には少年がいる。

少年「ねえ、君も景観法違反で捕まったの?」
少女「そうね」
少年「僕はカメラ持参の場所にカメラ持っていけなくて、捕まっちゃった」
少女「・・・そう」
少年「君は?」
少女「何が?」
少年「何をして捕まったの?」
少女「ラクガキ」
少年「え!?景観法適用エリアで?」
少女「うん」
少年「ど、どこに書いたの?」
少女「世界遺産に」
少年「え、えーーー。初めて聞いた。生きていけるんだ」
少女「どういう意味よ」
少年「いや、学校の歴史ならったんだ。世界遺産に落書きした人がいて、その場で殺されちゃったって」
少女「ふーん、そうなんだ」
少年「変な絵だったなー。書いてる途中みたいだった。未完成の絵なのかな」

看守が二人分の食料をもってきて二つの部屋に入れる。

看守「さあ、食え」

看守は俯いている。歯を食いしばる。両手をぎゅっと握る。

少年「おじさん、どうしたの?」
看守「とてもつらいことなんだがな。少年、お前は終身刑だそうだ。この部屋にずっといなくちゃいけない。そして、スラムの少女、お前は・・・明日死刑執行される」

看守は遠ざかっていきながらずっと叫んでいた。

看守「くそっ。なんなんだこの国は。いつからこうなった。辞めてやる。辞めてやるぞこんな国の人間なんか。ちくしょう!」

少年は唖然としている。ガタガタと震える。

少女「大丈夫?」
少年「嫌だ。お家に帰りたい。少ししたら前みたいに帰れるんじゃないの?ずっとっていつまで?」

少年はその場にへたり込み、号泣する。
少女は俯きうなだれる。

少女は何かに気づいたようにあたりを見回す。

少女「しーっ。静かにして」

少年は泣き続けている。

少女「静かにっ!ここから出られるかもしれないのよ」

少年はすこしづつ泣き止む。少女は微笑む。

少女「強い子ね。もうちょっと我慢してて」

少女は普通とは違う特異体質だったー
それは五感が異常に発達しているのだった。

スーッと音が鳴るのを少女だけが聞こえている。
少女は聞こえる音がする方に歩いていき、壁に手を当てる。

少女「ここね」
少年「何が?」
少女「出口」
少年「え?」
少女「あんたはどうする?私は出ていきたい。成功するかわからないけど」
少年「出れるなら出たいけど、全部石の壁だよ?無理だよ!」

少女はもう一つ特別な能力を持っていた。それはー

少女は指を噛み皮膚をちぎる。少女の指から血が滴る。
少女は口を歪ませる。少女の指には傷跡がたくさんある。地面にハンマーの絵を描く。目をつぶり精神統一する。血の絵から本物のハンマーが出てくる。

ー自分の血で書いた絵を現実の者にできる能力ー

少女はハンマーを手に持ち、壁に手を当てる。

少女「ここ、だったよね」

思い切りハンマーをその部分に打つ。壁に少し穴が開く。

少女「やった」
少年「なにしてるの?何か音がしたけど?」
少女「もう少し待ってて。一緒に逃げよう」
少年「うん」
少女「ちょっと時間がかかりそうだから、看守のおじさんがこないか見ててくれない?」
少年「わかった。でもお姉さんなら足音で気づくんじゃない?」
少女「訳あって、今は集中力がないから普通の人よりも音が聞こえにくいの」
少年「了解しました。隊長」

少女は照れた様子で顔をポリポリ書く。血が頬につく。青白い肌には一層血が映える。

×××
少女はハンマーでひたすら壁を叩き穴を大きくしている。穴のサイズはもう少しで少女なら抜けられそうなサイズになっている。

少年「ねえ。お姉ちゃん。お姉ちゃん」

少女はかなり汗をかき、もともとついていた血が汗と混じる。必死でハンマーを壁にたたきつけている。
カツカツと看守が歩いてくる音がする。

少年「隊長、隊長」

少女は全く気付いていない。必死でハンマーを壁に打ち付けている。

少年「ねえ!看守のおじさんが来るよ!」

その時壁に大きめの穴が開く。

看守「なんだ。今の音」

看守の足音が早くなる。

少年「ねえ!お姉ちゃん!」

看守が少女の部屋をライトで照らす。壁に穴があり少女が部屋にいない。看守が急いで鍵を開け穴に近寄り穴をのぞき込むと、遠くにグレーの囚人服が立っている。

看守「なんてことだ。あそこは・・・」

看守は首を横に振る。

看守「おーい。死にたくなければもどってこい!そこは危険だ!」

少年「お姉ちゃん、一人で逃げ出したの。約束したのに」

少年は泣き始める。

看守は穴から出ようと試みるが、サイズが小さく出られない。後方に裸の少女がベッドの上に立っている。手には針の様なものを持って。手は震えている。

少女「やー!」

少女は看守に飛びつき針を首に刺す。看守は気絶する。

少年「お姉ちゃん?そこにいたの?」

少年は満面の笑みになる。

少女「できた」
少年「ねえ!一人で逃げてなかったんだね?」
少女「今そっちに行くね」

少女は看守からカギをとり、少年の牢屋を開ける。少年の手を引き自分の部屋の穴から一緒に逃げだす。

少年と少女は笑っている。

少年「ねえ、おねえち、、隊長。名前はなんていうの?」
少女「陽(ひなた)。君は?」
少年「僕は月島(つきしま)。陽隊長!よろしくね!」

陽は急に立ち止まるが陽の背中にぶつかり、握っていた手が離れる。陽は俯き照れながら、月島の前に手を差し出す。

陽「よろしく。月島くん?さん?」
月島「月島でいいよ、陽隊長」

陽はぎこちない笑顔をして、照れているのを隠そうとする。風が吹き、陽の前髪がふわっと横に流れる。陽の片目が露になる。月島は陽の目を見て思った。きれいな瞳をしているが、一方で瞳の中の眼光は鋭く、少し不気味だと。と同時に親近感も覚えていた。

二人は握手を交わす。夜明けの太陽が昇っている。

ーそして、この運命の出会いが世界を巻き込む程の事件を起こすことになろうとは、まだ誰も知らない。当の本人達でさえもー























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