認知症?
夏、わたしは病室で祖母とひとしきり話したあと
祖母の手を握っていた。
祖母の手と私の手は熱で少し汗ばんでいた。
祖母は喋り疲れたようでいつの間にか寝てしまった。
ふと、祖母がボソボソと喋り始める。
どうやら寝ぼけているらしい。
「今日はもう帰ってもええんじゃろうか?」
「ようけ、お世話になったけぇ挨拶して帰らんとね」
入院している事を忘れてしまっている祖母。
「おばあちゃん、ここ病院やけん帰らんでええよ」
「おお、そうじゃった、そうじゃった」
このやり取りを4,5回は繰り返した。
病気の合併症で認知症のような症状が現れていた。
何回も何回も同じ事を繰り返し話しては
今の状況を思い出す祖母。
これは全て寝ぼけているのだ。
寝ぼけているのになぜこんなにもはっきり喋れるのだろう…。
本当に不思議だった。
認知症のような症状が出ていても
かえってこの方が良い場合もある。
他の人たちはたくさん苦労していたが
私は目の前にいる祖母の方が好きだった。
いろいろなしがらみから解放されているように感じた。
自分でトイレには行けなくても
今の状況が分からなくなっていても
声が柔らかかった。
笑顔が心の底から柔らかかった。
悲観的な事は言わずニコニコしている祖母が
大好きだった。
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