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アルルのおばさん

その日、一番朝早くアルルに来て、一番遅くまでアルルにいた日帰り観光客はわたしかもしれない。

一番朝早く、一番遅くまでいた日帰り観光客

朝早く、観光客はだれもいない午前8時半前にアルルに着いて、帰りの汽車に乗ったのは18時24分だった。

その結果言えることは、年中、観光客の多いアルルでも、冬はだらだらと長くいる場所ではない、ということ。ほどよい時間に来てさっと引き上げるのがよいのでは。ひと気のない寒々した時間には店の多くは閉まるし、寂しい。午後の陽だまりのできる時間帯に来て、楽しかった思い出を持ち帰るのが一番だろうと思った。


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ゴッホの絵画「夜のカフェテラス」のモデルとなったカフェは、街の中心の広場にあり、絵になった当時の雰囲気をとどめてあり、自撮りしている人たちが多かった。寒くなければここでコーヒーを飲むのもよいが寒かった。

暖かい陽だまりで遅めのランチ

午後3時の汽車でアヴィニヨンに帰るつもりでした。円形闘技場や古代劇場に入って、ひととおりの街歩きを済ませたので、ひなたぼっこができて、食事ができる、適当な店はないかを探しながら駅のほうに向かって歩いたところ、駅に一番近い旧市街の入口付近にアジアンなカフェを見つけた。テイクアウトもできるし、店でも食べることのできる店だ。


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インド料理でもタイ料理でもなさそうだったが、カレープラス何か、タイのシンハービールを頼んで、外のテーブルに座った。

店をやっているのは、18歳のときにカンボジアからフランスに渡ったというカンボジア人一家の女性で39歳になるおねえさんだ。親も夫も、子どもたちもいる。カンボジアの家庭料理を出しているのだという。

フランス語も英語もできて、地元のフランス人たちのなじみ客が多いようで、頻繁にテイクアウトのお客さんがやってくる。店内で食事をしているのは身内のような友達のような人たちだ。テイクアウト用に注文を受けながら客との間でなごやかな話に笑いが絶えない。とても居心地のよい店だ。

15時のはずが、18時

食事を済ませ、駅に戻ったのは、14時40分。

アルルの駅舎

15時ごろに出る列車があるものと思っていたが、モニター画面で時間を確認すると、18時24分(18時05分はバスによる代行運転)までなかった。「13時台」だったのを「午後3時台」と勘違いしたのか、出発と到着のモニターを逆さまに見たのか、同じモニター画面上の上り列車と下り列車を勘違いしたのだろうか。いずれにせよ、3時間半も待たなければならなかった。

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わたしと同じように長い時間、駅のベンチに座っている地元アルルのおばさんがいた。窓口サービスは午後4時半にはクローズド、駅のトイレも夕方になると閉鎖され、寂しくて寒い駅舎にいるのは、わたしとおばさんの二人だけだ。

寒い駅舎でお互い様トーク

コートではなく、ウインドブレーカーのわたしは寒さにぶるっとしたのをしおに、お互い顔を見合わせ笑った。

彼女も、昼ごろに時間を確認してアヴィニョンに行こうと午後3時前に駅に来たが、汽車がなかったのだという。ということは、もしかしたら、わたしの勘違いではなく、昼ごろには午後3時の列車も運行が予定されていたのがいつの間にかキャンセルされていたのかもしれない。
なにせ、フランス国鉄はストの最中なのである。ニースでも経験した。

駅構内の寒いベンチで寒さをしのぐには話をして気を紛らわしているのが一番だった。おばさんは、「英語を勉強したのは随分昔のことなのであまり言葉は出てこないわ」と言いながらも、気さくな笑顔の人でよかった。

フランスの国鉄は、列車が来る前になると、少しおしゃれでちよっとエロいチャイムの歌を合図に女性の声で行き先を知らせるアナウンスがある。https://www.youtube.com/watch?v=uPst01N1qtM

https://au-jardin-francais.com/jingle-sncf/

アルルはとても小さな駅だからそれを聞いてからホームに行けば間に合う。

18時に入って一つ目。3時間ぶりのアナウンスだ。18時04分発のマルセイユ行きだ。やがて、また。フランスに来てもう何回も聞いているので、聞き取るコツをつかんでいる。そう、「デスティネイション」(目的地)という英仏共通の単語の次に行き先の駅名が言われるからそれを聞き落さないようにすることだ。

「アヴィニヨン」。

確かにそう言った。おばさんも、合図を送ってくれた。いっしょに列車に乗り、アヴィニョンまで行った。

ハッピー・ニュー・イヤー!

アヴィニョンの駅でバイ・バイのときの彼女の挨拶は、5時間ぐらい早い「ハッピー・ニュー・イヤー!」だった。まさか、日本ではもう日付が替わり、ニュー・イヤーを迎えているなんてことは知らないだろうに。

日本では日付が変わり、元日を迎えている。

アヴィニョンではこれから街が混み出し、ニュー・イヤー・イヴを彩る花火も上がるということだ。

旧市街の入口にあたるブリストルホテルの真正面あたりで警察による飲酒運転の検問が始まっていた。ふだんよりはるかにクルマも人も多い。ライフル銃を持った若い憲兵もパトロールして歩いている。ピリピリと緊迫感が伝わってくる。これからもっと人が繰り出してくるのだろう。

あのアヴィニヨンの橋のほうで打ち上げられるであろう花火を見物に行って、カウントダウンとともに新年を祝いたいが、元日の朝は早く起きてアヴィニョンTGV駅からバルセロナに行くことになっているし・・・。

それに疲れている。もう寒いところに出るのは嫌だ。早く寝ることにした。

ふだんなら、このホテルから歩いて5分のアヴィニョン・サントル駅からわずか5分で行けるアヴィニョンTGV駅行きの列車が、元日の朝にあるかというと、絶対にあやしい。ホテルのフロントの人もそう言う。タクシーに迎えに来てもらったほうが賢明である。フロントに予約を頼んだ。TGVは朝8時40分発なので、7時半にはタクシーに来てもらうことにした。

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