25年あこがれたマルセイユだ。せめてその空気だけでも味わっていこう。
25年前のフランスの鉄道ストで来れなかったマルセイユはすぐだ。1995年にヨーロッパを旅したとき、イタリアから鉄道でフランスに入り、ニースは見るだけとし、港町マルセイユ名物のブイヤーベースを食べることをイメージしていたが、実現しなかった。61歳になった今もそのあこがれはあるが無理はよそう。メタボっぽい体型となったし、重いスースケースを持った旅だし。自ら進んで街にさまよう旅はちよっと・・・。
限られた乗換時間に街に出る無理はよそう。
2日前には、朝11時01分に着いて、駅周辺の雰囲気を見てちょっとでも歩けそうなら街に出てローカル色あるお昼を食べ、14時39分発でアビニョンに行けいないかと考えていた。が、今回またしてもストに見舞われたせいで、到着時間は12時30分になった。マルセイユ・アヴィニヨンの区間は大丈夫だろうか気になりだした。実際問題として、フランスで一番治安が悪そうなマルセイユという町は、スーツケースを持ってちょい歩きするようなところではなさそうだ。街に出るのはやめた。
最初になすべきは、アヴィニョンに行く列車はあるかどうか、そして、この大きな駅の乗り場の確認だ。出発列車用のモニター画面を見ると、14時39分発の列車はあった。やれやれだ。これで予定通り、アヴィニヨンに行くことができる。
街歩きをしないとなれば、時間はある。フランス第二の都市マルセイユの玄関というより、南フランスのターミナル駅であるマルセイユ・サン・シャルル駅は、日本で言えば、新宿駅か大阪駅のようなものだろう。パン屋さんもカフェ、レストラン、店までそろっていそうだ。お昼はサンドイッチでよいけど、ちょびっと駅の外の空気ぐらいは吸っておこう。
港に向かって高台のマルセイユ・サン・シャルル駅からの眺めはド迫力!
北口はどうやら新市街でオフキス街っぽく、面白みはない。港の方を向いた南口は屋外に出たとたん、現実感のない色合いの風景が広がっていた。
南は海のほうに開かれているので駅舎そのものが街より高く、デッキの石の階段下に広がる古い市街地とその向こうにある聖堂までパノラマのように展望できる。市街地の向こうには、サギ鳥の糞に染まったかのように白い聖堂と修道院、白い石灰の山が見える。こんな黒ずんだ白が画面いっぱいに広がる市街は見たことがない。街へ下りる大階段は歴史的建造物に指定されているとのことだ。石灰質の山を背景にしたマルセイユの街の色はまるでSF映画の世界のようである。もっと身軽であれば街に出たいが、手荷物が多くて防備できない。やはり、駅で時間を過ごすほうが賢明だ。見ていて飽きない。
そして、事件が起きた。
駅舎の南口デッキに出ていると、街がそうも騒々しくなってきた。パトカーのサイレンも聞こえてきた。北口のほうだ。群衆がいるほうを見ると、駅前のホテルの4階の立て籠もり事件の勃発だった。
興奮した上半身裸の男が、小さなホテルの4階の窓からベッドのマットや枕、シーツなどを次々と歩道に投げては怒りの声を上げている。駅のまわりの群衆たちも騒いでいる。パトカーや救急車なども集結し、警察官たちが見上げている。ほどなくしてスナイパーが到着し、男に照準を合わせてライフル銃を構えている。
30~40分すると、警察官が女を連れ、建物の中に入った。説得工作かもしれない。しばらくし、静まりかえった。交通封鎖をしていた警察車両も引き上げた。ライフル銃を構えていたスナイパーの姿はすでになかった。
さすがマルセイユ。いかにもこの街らしいものを見てしまった。
アヴィニョン行きの出札
アヴィニョン行きの出札口には列ができている。入口で切符をチェックするのは珍しい。マルセイユ・サン・シャルル駅を午後2時39分に出て、アヴィニョン・サントル駅に着くのは4時44分。ゆっくりとのどかな山や畑、農家の家や納屋を見ながら、小さな駅に泊まりながらの2時間だ。フランス第二の都市マルセイユと、アヴィニョンの間にはのどかな風景しかなかった。
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