指先の関係

あの子の手を握った。いや、正確には握っていない。握りしめてしまったら、それは単なる肉と肉の接触だから。

指先を知覚した。この世であの子をあの子たらしめている、私をわたしたらしめている入れ物の末端。世界とあの子の境界線。私とあの子の境界線。私の手のひらを、あの子の手のひらに触れるぎりぎりのところまで近づける。まだ触れてはいない。触れていなくても、そこには気配がある。ただの肉片ではないことが分かる。何かを宿した入れ物として肉体、その境界線としての指先。

指先から手首までを撫でる。第一関節、第二関節、それぞれの丸さを撫でる。指の付け根のゴツゴツを味わう。親指の下の盛り上がった手根部分をさする。掌線のくぼみをなぞる。手のひらは湿度があり、甲はカラリとしている。やや薄い爪の生え際と甘皮の境目は柔らかで、私よりも幅広くて大きな爪がある。同じ手と手なのに、あの子の手と私の手は違うことだらけだ。でも、どちらにも温度がある。生きている。

手のひらを通して、この時空で、あの子に与えられた環境と肉体で生きていくのは、どういうことなんだろうと想像する。毎日会い、言葉を交わしても分からない。感じ、想うしかない。何を快と感じ、世界と接しているだろうか。

あの子にはなれないけれど、雲の切れ間から地上に向かって光線のはしごが降りてくるあの光景のように、あの子と橋がかかる瞬間がある。そのとき、わたしとあの子は間違いなく出会い、関係している。指先から広がった光が、私の手のひらにかかるように。

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