note表紙サイマティクス

ひらめきからの大実験

音が1秒間に約340mもの速さで空間に伝播してることは、あらためて考えてみるとすごいことです。地球の自転よりも若干遅いが、大気がそれに近い速さで振動しているなんて生き物の呼吸のよう。

それよりも伝搬速度が速いのが「水」、水中に至っては1秒間に約1500mと、自転の3倍近い速度で音が伝わっているのだからすごい。クジラが地球の裏側までソーファーチャンネルなどを通じて会話ができているのもの「水」が意志を媒介してるからに他ならない。

ボイジャーが収録した惑星の電磁波の中で、地球だけが特別な音を奏でているという。それは地球の表面にある水の振動ではないかと思う。ボイジャープロジェクトに携わった佐治晴夫博士もそう仰っていた。

一般的に音として感じる可聴域の「周波数」をもとに、惑星の動きを「水」を使って、視覚的に表現する試みをある時ひらめいた。

サイマティクスとは、振動によって共振する水のふるまいなのだが、太陽系という大きなスケールで私たちも同じく共振していると考えたらどうだろうか?

その思いつきは単純だったのだが、実際にどう表現したら良いのかはさっぱりわからなかった。まずは水が最適に震える装置を作らなければならない。そして音をどうやって作り出したら良いのか、何度も失敗を繰り返して、ようやく形になったのは、スピーカーに足をつけて紙皿で密閉し、プラスチックの薄いシャーレのような形のものだった。とりあえず身近にある素材では手当たりしだいに試してみた。大きすぎても、小さすぎても、厚くても薄くて、水は震えない、そんな絶妙な条件を探るのに、部屋は試作機の残骸だらけになった。

特定の周波数によって、水のふるまいは敏感に変化する。1hzごとに様子を伺うように、その波紋を見続けた。わずかな水の量によってもふるまいが変わる水の敏感さをあらためて思い知った。

ある程度、再現性のある状況を作り出すのは、根気のいる一人プロジェクトXな作業だった。

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惑星の周波数を可聴域の低周波に調えた音叉(チューナー)というものがあるのだが、これを実際に鳴らすというのはなかなか難しい。各周波数に合わせて形を計算し、共鳴箱というものを自作した。周波数に合わせて、口の広さや筒の長さが完璧に噛み合うと、かすかな響きの音叉が、楽器のように共鳴する。惑星の音叉は100-200hzとかなり低いので、パイプオルガンのように筒も長くなり、DIYとは言え、またまた部屋が箱だらけになるほど大掛かりなものになった。

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そんな作業現場に友人の河村和紀さんが訪れてきれくれた。

嬉しかったのはTough Films 山之内俊明さんが撮影機材一式を快く貸してくれたことだった。そのお陰でこの映像ができたし、このシンクロが無ければ太陽系サイマティクスは世に出ていなかったろう。


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二泊三日の撮影合宿を開始した。

サイマティクスマシンは楽器のように、チューニングしなければならず、水が調子よく震えるにはずいぶん時間がかかり、いざ撮影しようとしたら、「光」の調整が非常に問題だった。水の振る舞いを視覚化するにあたって、それはすべて光の反射によるものだから、表現という点では絶妙な距離と角度と光量と光源が決め手となる。これはまだ解決してなく、未だに光をどう当てたら良いのか理想の形は見つかってない。が、とりあえず撮影はなんとか成功した。

太陽系の一年を約50分という時間で表現している作品の撮影は、1時間以上かかる長丁場の撮影で、しかも空気中の「ホコリ」が入ると台無しになるという過酷な条件だった。息を潜めて水を見続け何度もリテイクした。

2日目、奇跡的に一発撮りに成功した。

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その後、その企画を地球暦の展覧会、feel art helios (名古屋 Gallery NAO MASAKI)と、北海道のモエレ沼公園ガラスのピラミッドで期間展示した。

サイマティクスのマシンを展示物として、現代美術作家の佐藤貢さんが作って下さり、フォトスタジオV.Aの岡村さん夫妻にお願いして、リアルタイムでそれを映し出すインスタレーション作品を作ることができた。

水の振る舞い、それから光、すべての状況が噛み合っての水の展示はかなり高いハードルだったが、DIYから始まり試行作後でサイマティクスで太陽系の時空間が表現できた時は感動した。

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今度は、さらに発想が飛躍して、スペースフラワーという惑星の会合が描く幾何学と、その周波数で、どう水が震えるのかをパフォーマンスアートとして表現するという、実験的なライブを思いつき、惑星の音叉を録音していただいたMIWAFUKUさん、それからギターの本村直美さん、作家の佐藤貢さん、メディアアートのHIEI (日栄一真) さんらミュージシャンに協力いただき時空間即興なライブイベントをfeel art heliosで行った。

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とにかく、成功するもしないも、水への神頼み的な心境だった。惑星に合わせて音叉を鳴らし、それをサイマティクスで映し出し、生解説していくというもの。始まったら1時間ノンストップで、すべてが一発勝負の賭けのような状況だった。

ライブは水と心が通じたのか、奇跡的に大成功となり、心からホッとした。もう二度とあの時空はないし、表現できないと思うほどやりきった展覧会でした。

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ひらめきは簡単でも実際に表現するのは大変なこと。

このサイマティクスはそれ以降は作品化してないのが、マシンは今もお蔵入りしているので機会があったらまたぜひチャレンジしてみたいと思っている。次はもっと良いものができるだろう。

feel art helios(Gallery NAO MASAKI) での展覧会、モエレ沼公園ガラスのピラミッドでの展示も、音楽のインスタレーションは、音響機材のブランド「シンタックスジャパン」さんに多大なるご協力いただいた。そのおかげで最高の立体音響での展示が実現することができ、この壮大な実験的企画が成り立った。この場を借りてお礼を申し上げます。

また楽曲制作はベルリン在住の音楽アーティスト須藤功さんに協力いただきました。

関わっていただいた、アーティスト、スタッフみなさまにあらためて感謝いたします。


#金星軌道

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