コロナ陽性判定と夫婦の話

「やっぱり思った通りだった…」
PCR検査の結果は陽性だった。思い当たる節がないわけではなかった。終わりの見えない感染症の流行だけでなく色々なことにストレスを溜めていた僕は仲のいい友達を誘って夜の繁華街に繰り出したのだ。

38℃の熱が出たのは昨日。幸い濃厚接触者に当たるのは妻だけだった。この流行以降、僕の仕事はほぼテレワークに移行した。そもそもPCを使った仕事のため会社に行かなくてもできる仕事なのだ。

陽性判定を受けた僕はそのままホテルでの療養となった。会社に連絡を入れる。妻は僕と違って外回りの仕事をしている。妻にも連絡を入れた。妻は症状がなかったため自宅での療養となった。

発熱の状況から陽性判定が出ると確信していた僕は妻が仕事に行っている間に家でやらなければならなかったことは一通り終わらせてからノートパソコンとを持って病院に行った。おかげで無症状になった後も暇を持て余すことはなかった。

ようやく…というほど僕は暇を持て余してはいなかったがホテル療養が終わり僕は自宅に戻れることになった。妻も明日から外回りらしい。僕は妻の会社にもお詫びに行きたいと相談した。流石にそこまではしなくていいと言われてしまったので妻に手土産をせめてものお詫びとして会社に持っていってもらうことにした。

僕は翌日午前中に休暇を取り妻の会社の人達に喜んでもらえる様な手土産を用意して妻の会社の前で待ち合わせをした。妻に手土産をわたし上司や同僚の皆さんにくれぐれもよろしくと伝えて自宅に戻った。

自宅で仕事をしていると携帯が鳴る。妻からだ。夕食のリクエストかと思いきや電話の向こうで言葉にならない声で叫んでいる。なんでも手土産がどうとか。何か妻の上司の嫌いなものでも入っていたのだろうか。慎重に選んだつもりだったのだが…妻は怒っていて何を言っているか聞き取れないので話は自宅で聞くとだけ言って電話を切り、そのまま携帯の電源も切った。

家に帰ってきた妻は電話の時以上に怒っていた。大声で叫び僕に色々と罵声を浴びせてくる。たかが手土産でそんなに怒らなくてもいいのではないだろうか。怖くなった僕は部屋の鍵をかけ閉じこもり友達に電話して家に来てもらうことにした。友達は仕事終わりか合間だったのかスーツのまま慌てて家に入ってきた。友達が妻に声をかけ挨拶をすると妻は少し落ち着いた様子で何があったのかを話し始めた。

翌日から僕は妻が落ち着くまでの間しばらくホテルで仕事をする事になった。

数ヶ月が経ち今僕は東京から離れた田舎で仕事をしている。会社はコロナをきっかけにどんどんとテレワーク化とオフィスの人員削減が進み都会に住む理由の無くなった僕は家賃の安い今の場所に引っ越した。

妻とは田舎に引っ越す前に別れてしまった。いわゆるコロナ離婚という奴だ。

離婚は僕から言った。

でも慰謝料を請求されることは無かった。

パソコンも引っ越しの時に買い替え、コロナ禍で散々お世話になったノートPCは殆ど使わなくなった。

使わないのであれば売却してもいいのだが自分のためにどうしても消したくないデータがいくつか残っている。

妻とのメールの記録
妻が行った場所の記録
妻との思い出を記録した動画

どうやら僕はこの3つをうっかり手土産の中に入れてしまったらしい…きっと色々なストレスでおかしくなっていたんだろう。

今も使うことのないパソコンは部屋の隅に置いたままだ。

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