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何も言わない山田さん

入店して1年半。
お客様も、お陰様で増えて私のスキルも多少は上がった(と願いたい…)。

普通の1年とメンズエステの1年は違うと思ってる。メンズエステの1年はとても長い。

この1年で、私が入店した頃に居た女の子は、ほとんど居なくなってしまったし、お客様も色々な事情で入れ替わる。特にこの2020年はそうだったんだと思う。
この間、私も入れ替わった一人になった。

そんな中で、入店初期から来てくれていたのが、山田さんだった。

「久しぶり〜!」

「全然予約取れないから…」

山田さんは帽子と眼鏡を外しながら歩き、椅子に座って涼しそうにした。シャワーに案内して、戻ってきて、マッサージを始めると、眠そうにしながら、いつも言ってた。

「急に居なくならないでね」

やめる、と決意したときに
山田さんの顔が浮かんだ。

山田さんはTwitterをやっていなかったし、
(やっていたとしても私はアカウントを知らなかったし)
連絡先を知らなかったし、本名を知らなかったし、
何をしてる人なのかも知らなかった。

そういえば、次に会うときに
教えてくれると言っていた。

いつも言っていたけど。

山田さんは決して、いわゆる「良客」ではなかった。
何度も注意して、不貞腐れて帰ったこともあった。
その次に会うときはいつも、
「前回はごめんね」と居心地悪そうに目を合わせず、廊下を歩きながら呟いた。

「かほちゃん、急に居なくならないでね」

約束を守れなかったな。

テレビに出ていた、山田さんに似てる人を見て
「この人が本当に山田さんだったとしても
私は確かめることがもう出来ないんだな」と思った。

急に居なくなってごめんね。

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