2023年9月1日 夏のホラー淫ク☆リレー企画'23感想

去年の感想はこ↑こ↓


夏のホラー淫ク☆リレー企画'23

 やっと、――夏が終わるんやな。
 去年の感想を書いた時と同様、自分は怪談・ホラー・映像作品に造詣の深い者ではありません。それでも作品群にはきちんと感想を書きたいので書きだす……というところも去年と同様です。


シンプルにおすすめ5作

11日目「神秘の記憶」

 梅雨時の雨上がりの空みたいな、湿った爽やかな読後感

12日目A「知らない人です」

 心霊現象は出てくるけど、ホラーというよりは感動話。
 映像としても美しくて、「交差点で車が一時停止で止まって再発進するまでの間」をワンシーンとして切り取っている部分は、筆者のお気に入り。

26日目 「タタリトミタリ」

 なんだこの……なんだ……!
 原作の原作を踏襲した世界観で、王道を征く。

28日目A「雨宿りの性悪説」

 15分の短編動画。
 間の取り方トーン調整が巧くて、クロップ(動画の縦横比を調整する上下の黒い帯)としねきゃぷしょん(映画字幕みたいなお洒落なフォント)が実際よく似合っている。

31日目「天井裏のポルターガイスト君」

 たぶんこれが一番太いと思います。
 昨年4日目の「神隠しの噂 -真夏の夜の夢に取り残されて-」の作者が送る71分の極太動画。語録、シナリオ、映像、演出、全てが太いぜ。


尖っていておすすめ4作

20日目「下北夜話」

 オムニバス形式の中盤に出てくる、ウリクル(東南アジアの架空の地域)の話がとてもユニークな味をしている。
 ホラー・怪談作品は、日本や欧米の価値観を標準として語られがちだけど、基準となる価値観がエスニックになるだけでこんなに新鮮になるものなのか!

 我々の価値観ではなんでもないことがその文化では異常だったり、逆に異常なものが当たり前のように語られたり、まあタクヤ系動画なので何もかもがトンチキではあるんだけれど、それにしてもとても斬新で良かった!
 後述の「架空」の話になぞらえるなら、ウリクルは宇宙に造られた人工衛星くらい荒唐無稽だ。ここまで突き抜けた不条理には圧倒される。

23日目「ふたなりRRMのジェノサイド種付けプレス」

 ああ、もう気が狂う!

 明らかに悪ふざけのようなタイトル、序盤、そして中盤。それなのに終盤ではセカイ系ホラーとしてきちんと盛り上げてくるから恐ろしい。
 結局のところ、王道を征く面白さを作るパワーはあるに越したことがないし、序盤中盤でふざける前提なら王道こそが力強いオチとして機能することもあるわけだ……。感想を書く程度の能力しかない自分は、敬服するばかり。

24日目A「2810年宇宙の恥」

 ……インターステラーじゃねえか!

 元ネタの2001年をご存じの方ならわかるとおり(ご存じの方しかわからないだろう)、この動画のホラー要素も心霊現象のホラーではなく、宇宙空間本来の恐怖、それから演出のホラーだ。
 元ネタ(群)と比較してオリジナリティが高いかというと、そうとも言い切れないが、「ホラー動画を作ろう」という出発点から2001年宇宙の旅をホラーの枠組みで連想したことユニークさを感じた。

27日目「インサイド・マイ・マインド」

 ゾンビパニック・イズ・ホラー!
 伏線回収やじんわりとした恐怖ではなく、今目の前で起きている出来事で視聴者を釘付けにするタイプ。これはかなりアクション映画だ。


全体を見た上での感想

コミカル会話劇とホラー要素

 去年と比較して……と言うにはあまりにも主観的すぎる話ではあるけれど、期待の新人が作ったような動画が多かった印象がとてもある。
 具体的には、ホラー部分と会話劇部分がそれぞれ独立していて、面白味は長所としてきちんと持っているけれど、ストレートな表現をするなら冗長な感じの作品のことを、自分は新人っぽいと感じている。(「新人っぽい」は間違った表現かもしれないけど、しかしこういう作品が多かったことは共感してもらえると思う)

 視聴者目線の勝手な物言いではあるけれど、自分の思っていることとしては……。
 「このキャラを出したい」とか「このトリオの掛け合いを描きたい」みたいなところからスタートすると、登場人物過多になって、作者がやりたいからやる会話劇が増えるぶんホラーに割く尺がなくなるorホラーと無縁な会話劇が増えてしまうのかもしれない。
 それから、DKSG教授、AKYS先生、誰?みたいな解説・解決役は気軽に追加できるけど、主人公と行動を共にする友人みたいな立ち位置のキャラは追加するとコメディ会話が捗ってしまうのかも。

 終始ホラーから離れずに中時間の会話劇をやり遂げた例としては、2日目Aの「双身天」16日目Aの「帰ってきたれうさん」が良かった。

【追記ッ!】
 そういえば、茶碗の欠片兄貴(去年の人攫い街灯、今年の屋根裏ポルターガイストの作者)の空手部トリオって、どこかのタイミングで1人と2人に分かれてることに気づいた。
 2人きりにすることでそれぞれの性格や考えの違いを視聴者にわかりやすく示せるし、1人になった側のことも第三者目線で描写できる。
 それにだけじゃなくて、1人になった側はモノローグ(回想や主観目線での状況整理)が捗るし、孤立無援の状態なら怪異に襲われる緊張感も増す。
 これって一石四鳥の勲章ですよ……。

 身も蓋もない話、登場人物が多い場合の解決策ってパーティを分断することなのかもしれない。(欠点としてはこれをするとたぶん動画が長くなる)


田舎因習モノの増加傾向

 雨乞いの儀式多すぎィ!
 ホラー淫ク☆にどこまで意識の高さを持ち込むべきかは難しいけれど、生贄とか因習とかの話多くなかったですか?

 この場合の「意識の高さ」はポリコレ的な意味というよりも、「『そういう因習です』『昔あった生贄の儀式の結果です』だとなんでもアリすぎるから、ホラーとして安易かもしれない」みたいな意味での意識の高さです。
 オリエンタリズムという言葉は用いるんだけど、しょせん淫ク☆動画なので差別偏見を非難するほど僕もマジメではない。

 架空の因習・儀式を持ち出すなら、それがご都合主義になってしまわないように、うまく伏線を張ったり、実在の何かと関連付けて説得力を補強したりした方がいい……と思うんですよね。
 ちょっと離れたジャンルの例を出すけど、SCP-161-JP「伊れない病」の怖さ・面白さって、読者の「うわっ、確かに『伊る』って単語読めないわ」っていう体験あってのものじゃないですか。
 まあそこまで身近ではないにしても、どこか現実に根差した部分のある(民俗学的な論文を引用するとか)話じゃないと、どこまでいっても「Aがあると仮定します。するとAがあります」みたいなかったものでしかない。

 最後にマジメな批評も引用してこの話題を締めます。

澤村 全作は押さえていないけれど、パラパラと見ています。傾向として、土俗的なホラーが増えている印象ですね。選考委員の辻村深月さんも選評で「近年、田舎を田舎というだけで何が起こっても許される装置として乱暴に描いてしまう応募作が多い」と書かれていましたが(※「小説 野性時代」2020年9月号)、僕も同じ問題意識を明確に感じています。

 最近、ネットなどを見ていても、やっぱり映画『ミッドサマー』が流行った頃から土俗的な作品へのカウンターの意見が出始めているんですよね。「結局それって田舎をバカにしてんじゃないの?」という。感度が高い人ほど、たとえば横溝映画が全盛期だった70年代とは違って、異文化を恐怖の対象として扱う作品を無邪気に楽しんではいられないという意識を持ち始めている。

https://books.bunshun.jp/articles/-/6476?page=3


 嘘です。
 やっぱりもうちょっとだけこの話題続きます。

ホラー淫クに呼ばれなかった人スペシャル一日目『平野店長が語る怪談』’

 この動画の怪異「紫色の猫」は、怪異をきちんとけるための透明な脚立の使い方がめちゃくちゃ上手かったです。(この人去年も理論派みたいなコトしてたんだよな……)


こ…去年のリレー感想ですねぇ


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