2023年11月24日 読書記録
猿蟹合戦の源流、桃太郎の真実
民俗学の本。単純にカニが好きなので本として読んでみた。
具体例を読み飛ばして結論だけ読むのを許容するのであれば、事前知識なしでも読み進められる内容ではあった。
この本を読んだ感じ、民俗学とは「中国の〇〇族には猿蟹合戦に似た物語が伝わっており、それはこのような内容である。……」「また別の地域の〇〇族では……」といった具体例を並べて比較することで、猿蟹合戦の登場人物はどのタイミングで(どの地域を通ったときに)サルとカニに固定されたのかを明らかにするといった学問らしい。
(もちろんこれは民俗学の一分野の説明にすぎないだろう)
ここまでの説明がたったの30ページで展開されるので、やっぱり「具体例なんて知らねーぜ!」という人でもそれなりに楽しめる本だったと思う。
ゼロからはじめる建築の[歴史]入門
(部分的に)かなりのアタリ本。
第1章第2章では「ゴシックは尖ってるやつで、ロココは華奢なやつ」くらいの軽い確認で建築史を一周した後、第3章以降ではアーチやヴォールト構造の力学的な工夫に着目して建築史をもう数周する。
「ゼロから」のタイトルに偽りなし。同シリーズで[施工]や[RC建築]などの(よりハードそうな)ゼロから入門もあるので、死ぬほど暇になったら手を出してみるか……。
一方、モダニズム以降と伝統的装飾のパートはイマイチだった。
どちらも力学的な理由ではなく美的デザインのための工夫の紹介で、必然性がないことなので覚える意欲がわかなかった。モノクロ印刷の小さい挿絵では用語がどの部分を指しているのか把握しづらい箇所もあり。
伝統的装飾は、一読して把握するというよりも気になる建築を見たときに「このオーダー(柱)は何式だろう?」と照らし合わせて納得するために読むかもしれないけれど……建築史の一部には違いないから全省略はできないけど、かといってゼロからはじめる本で語るには詳細すぎたかなあ。
モダニズムの建築デザインは、それ自体は興味があるので別冊でやってほしい。直截現代の生活に繋がってるのはこっちなので、学ぶ価値は絶対にあるはず……ただ、やはり建築史の一環でやられると困る……。
図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?
図書館で立ち読み(借りずにその場で読み切ること)。
はじめに「この本が自分にとって役立つか手早く知りたい人は、第2章を読んでください」と書いているような、ユーザーフレンドリーな本。
それで実際に第2章を読んでみると、蚊やウグイスを例に同定の手順を紹介してくれる。たとえば「(他のカっぽい昆虫と比べて)カは口が細長くて、着地したときでも一番後ろの足が浮いているのが特徴」といった具合。
3章以降はちょっと微妙で、個別の話やエピソードトーク寄りなので役に立つ知識は乏しめ。最終章で再び役立ち知識が出てくるのがなんとも……(筆者ではなく編集者が)もうちょっと構成を頑張れたように思う。
図解 ここが見どころ! 古建築
「ゼロからはじめる建築の[歴史]入門」で日本建築が紙面不足だと感じたので追加で借りてきた。気になる図だけパパっとめくって読んだ感じ。
ここまで読んできたわかったのは、自分は力学的な必然性のある要素は興味があるけど、歴史的な偶然で生まれた様式にはほとんど興味がないらしい。デザイン的な必然性に関してはその中間だ。
具体例を出すなら、アーチやヴォールト>モダン建築の左右非対称性>円柱の装飾みたいな感じ。
その後、八坂神社や知恩院の屋根も観察してきた。こういうとき、近所の寺社が有名どころばかりなのは紹介しやすくて助かるね。n=4前後の観察結果は以下の通り。
神社の門(≠鳥居)の一階部分は本で紹介されていたような三手先組物が使われることはないらしい(斜めの木材がない)。 二階部分はものによる。特に面白かったのは八坂神社の門で、祇園に面する西門は三手先組物じゃなかったのに、南門は三手先組物だった。後で余裕があれば建造された時期とかを見てみよう。
八坂神社本殿?の組物が凄い!
自分の読んだ限り、組物が支えるのは丸桁と呼ばれる部位で、これは壁と平行に走る一本の木材で、その丸桁が壁と垂直な垂木(屋根を裏から見たときに見える、平行でたくさんあるやつ)を支えていた。
それがどういうわけか、八坂神社の本殿では組物が直接垂木を支えているように見える。これだと垂木のうち数本にしか支える力が伝わらないような気がするが……だれか詳しい人いますか?
寺院の内部構造・柱組の名称
資料として、このサイトも相当ありがたかった。
……というか、度の本よりもこのサイトが一番わかりやすかった。
図書庫の城邦と異哲の女史
ぜんぜんメイン興味とは別に、紹介されたので読んだ。
たとえば「アメリカ大陸の発見」と聞いて、「おっ西洋中心的な表現だ」となるような人向けのライトノベル。メインジャンルは科学。統計学や化学合成はもちろん、常用対数や旋盤作業みたいな工学から、科学史まで供給が手厚い。
文体自体は平易なので読みやすい代わりに、数式を理解するために本編外で2,3時間かけて高校~大学数学の復習を求められる場面もあった。(そういう時に限って、自分の復習が物語の予習として機能して、つまりは自学自習しなくても次の回で開設されていたりする)
27歳理系博士号持ちの女史と、17歳知的好奇心と実務能力の高い青年の、決して恋愛ではないが毎晩抱き合って寝るようなカップリングもあり。
(これは僕のド級の偏見、ド偏見の術式開示なのですが)こーゆー高知能な人ってアセクシャル名乗りがちだよね~って感じ……この表現で「なんとなくわかるかも」となる人は僕たちの仲間です。図書庫の城邦と異哲の女史を読みましょう。
(ちなみにだけど、自分の中のド偏見術式には「ノンバイナリー&発達障害&催眠への被暗示性」とかのステレオタイプもある。この手のやつって、統計を取ればかなり雄弁なモノが出てくると思うよ)
ユトリロ展
図らずもこの2か月間の芸術鑑賞訓練の実践パートとなった。
「右下の河川敷や右上の街並みがナナメになってるのがお洒落。水平要素の強い左側とは対比になってる。橋が画面中央を横切ってることもあって、物凄く大まかに見るなら、画面左側は上下対称みたいだと言えなくもない。右側のナナメ同士も、裸眼で見れば(橋の裏側のナナメも含めて)平行に見えなくもないわけで、画面の構成としては案外情報量が少ない。
水の色を暗く、空の色を明るく描いているのが面白い。曇り空ではあるけれど、それでも重たい色使いの街や川からの逃避先としての空って感じがする。」
まあこんな感じで、想像より遥かに絵画への言語化能力がついていてビックリした。実際には展示されていたいろんな絵画に対して、ある程度こういうことが言える。
ユトリロの作品は全体的に構図がシンプルだ。フランスの建物があまりゴテゴテしていない(それぞれの建物の側面が平面的で、道路に面する建物の並びも平面的だ)からな気もするけど、3D空間上の平面にテクスチャを貼り付けたみたいな面が多い。
色も、壁の白色、屋根の青色、空の灰色をベースに、ときどきレンガの赤色や木々の緑色が入るくらい。質素だけど、調和がとれている。(これらはユトリロというよりも、フランス街並みの性質なのでは……?)
そのシンプルな画面の構成に対して、塗りで情報量を増やしているのがさてはユトリロのアプローチだな?というのが自分の解釈。白色の壁を塗るために、実際に絵画に漆喰を混ぜた作品もあるのだとか。
ゴシック様式の大聖堂の絵画では、その威厳を示すために絵の具が立体的になるように塗られて、もとい置かれていて、遊戯王のレアカードでこういうのあったな~!と懐かしくなった。印刷物で見る絵画は2次元だけど、実際の絵画は案外3次元なのだ。
絵画自体にも絵具の凹凸があるし、鑑賞する我々も歩きながら鑑賞したり、立ち止まっているときでも頭がある程度揺れたりするという意味で。
この一年間でいくつかの展示を見てきたけど、今のところこのユトリロ展が一番実物を見た甲斐があったと感じた。
井田幸昌展 Panta Rhei
前衛度がたけーぜ!
たとえばこういうのが人物画である。
解説文で「不変なものなどないというメッセージ性が込められている」と読んで、「赤色が変化(血肉の色でもあり、どこか腐敗や劣化をも連想させる)」とかあれこれ考えてはみたけれど、うーむ、結局答えはない気がした。 極論、「この人特有の共感覚で、他の人には感知できません(クオリア論)」みたいなことでもおかしくないと思うし。
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