見出し画像

栃餅

毎年いただく栃餅を、いつか自分で作りたいと思っていた。
この山地に越して25年、貰えなくなったら食べられないものの一つが栃の実を搗きこんだ栃餅。
栃の香りがふわり口中に漂い、うっすらと苦味が広がる。
砂糖醤油や胡桃だれの甘さで食べる。
醤油麹や、柚子胡椒も良い。

山の衆の一体どれほどの年月これを食べてきたんだろう味の朴訥さ。
変えようがなかったからか、アレンジしても舌に長続きしなかったか。
粗野を食べ続けるを担保するには自分で作るしかない。

そこに実がなる木があって、長い時間水に晒せる用水路があるから作れるのだろう。
作る工程を隣の婆ちゃんに聞く、他地域の方法もググる。
分からなかったら婆ちゃんに聞き、そこまたググるを繰り返す。

さあと初めて作った2015年。
以来毎年栃餅を搗いている。

その作り方の備忘録


栃の木

この辺りは栃の木が点在している
中でも集落にある栃の木は、うちから町へ降りる時、町から集落へと上がってくる時、日に幾度となく眼にする樹齢八百年の大木である。

樹齢八百年に畏怖の気持ちもあり、それでもそこに在る木の当たり前な風に自ずから然りとはこういうことかなと思いもし、けれどそこにあるから親しみが湧くという様な柔い感覚はなく、まるで神社にいるような凛と森閑な気配。

そうして周りの衆が当たり前に餅にしているのと同じく、普通に八百年を食べたかった。

・ 実を拾う

画像4

9月18日、拾う。
独りで行かない、下ばっか見ていて気がついたらそこに熊いたりしたらと想像するだけで怖い。


画像3

これで大方一臼分
3kgの糯米に、これくらいの栃の実

画像5

すぐに外側の皮をむいて鬼皮のみにする

・実を水に晒す 1週間

画像5

中に入っている虫を殺すため、外皮を剥き鬼皮の付いた状態の実を水に1週間浸す
この時鬼皮を剥かないのは、後の工程の乾燥保存のため。
しかし猿も食べない灰汁の強い栃も虫は食べるのだと妙な感心をしてしまう。

画像6

画像7

浸けっぱなして、時々は見に行く

・ 干す 1~2カ月

画像8

水に浸け終わった実を干す
鬼皮を剥きやすくかつカビが生えたりするのを防ぐため1~2カ月天日干し
そのうちに中の実が縮まって、振るとカラカラ音がするのが出てくる
乾いたなーって感じ
そして缶とかに入れて保存

この状態にしておくと何年も持つと言われるけど、聞けば3年くらいじゃないかと言う。

実際、通販で「乾燥栃の実」を購入したが全く使えなかった。
まずは売っている実で作ってみてどういう具合を辿るのかを体験した方が良いなと考えたのだった。
だが剥いたらボロボロに壊れた。1kg1,400円くらいだったが、こうして自分であく抜きをすませる今にして思えば、乾燥機で乾かしてかつ何年も経っていたのだろうと思う。
こんちくしょうと思ったことでした。

もし餅搗き用に「栃の実」を購入するんだったら、灰汁抜きを最終工程までした「冷凍の栃の実」が良いです。1kg5,000円ほどと高いですが間違いない。乾燥栃の実購入で失敗こいたので、「灰汁抜き済み冷凍栃の実」を購入してみて搗いたら出来ました。
1回買って試して、以来見様見真似と口伝を頼りに栃餅を作っている。

さて実を乾かした後からの工程
ここからが本チャンの灰汁抜きとなる

1. 鬼皮を剥くため熱湯につける 3日間
2. 鬼皮を剥く (渋皮はそのまま)
3. 剥いた実を水に晒す(渋皮はそのまま) 1週間
4. 堅木の灰と合わせる 3、4日間
5. 餅つき

つまりは餅搗く日を決め、灰汁抜き1の熱湯につける日を2週間位前から始めるという作業工程になる。
去年は計算間違えして餅搗き日に灰汁抜きが間に合わず、マジかとなった。
栃餅だけ後日搗いた。

1. 鬼皮を剥くため熱湯につける 3日間

画像9

乾かして置いた実を容器に入れて熱湯を注ぎ放置
毎日水を替える
適当に3日くらい浸けたら、鬼皮を剥く日の数時間前に熱湯に浸け変える
その方が剥けやすいから、多分水でも良いと思うがこれだとなかなか剥けない。

2. 鬼皮を剥く (渋皮はそのまま)

画像10

梅割り器を使っている
ぐにっと滑らす感じで割れ目を入れる程度
割れ目から鬼皮をむしり取る
鬼皮は、外側の硬いやつです。
大方は小さく割れる
丸のまま綺麗に剥けるときがあって感動する。

画像11

水に晒す日まで水中に入れとけば良い

3. 剥いた実を水に晒す(渋皮はそのまま) 1週間

画像13

画像13

12月。
1週間晒す。
ここで水に晒すのは何故なのか分かりませんが地区の衆は皆そうしているので真似する。

4. 堅木の灰と合わせる 3、4日間

画像14

実を水から引きあげて洗い、堅木の灰と合わせる
ビニール袋に灰を敷き栃の実を置く、その上に又灰を置き、熱湯を回しかける。

堅木とは硬い木で、うちでは楢の木の灰を使う。雑木や針葉樹だと灰汁が抜けないと伝えられている。が、上手な人は松の灰が混じっていても抜かすんで、経験測なのだろうと思う。
うちは経験浅く失敗したら糯米を駄目にしてしまうから絶対冒険はしない。失敗したら泣く。

栃の灰汁は火辛いと聞く。
火辛いってどんなだろうと爪の先くらいを口に入れてみたら、半端なかった。ぴりぴりしたのが翌日も続き、舌が馬鹿になる風です。


5. 餅つき

画像15

実に付いた灰を洗い流す。この時に結構渋皮が取れる。
糯米の上に栃の実を置いて蒸す。大体30分くらい。
糯米と栃の実の割合は適当、取れたなりに入れる。
もち米が蒸せたら一緒に臼に入れる。

この集落は渋皮を取り除かない。
それが栃の風味を醸すのだそうで残ったまま。
渋皮を綺麗に取り除く地域もあり、それぞれのやり方で良いのだと思う。

画像16

搗きはじめ

画像17

途中

画像18

搗き終わって、型に入れて伸ばす
つぶつぶが残った餅が好きで、しっかりつぶさないで搗き仕舞い。

画像21

画像19

画像20


ちなみに栃餅は貧乏餅ともいわれる。
ここまでして栃を入れ餅の総量を増やすからか。
白100%をごまかすと捉えたのか。

いずれにせよ、自分が旨きゃ良い。

そうそう、最後に集落の大切な口伝えを
『餅は笑いながら搗く』。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?