鹿児島県警 枕崎署員による盗撮事件隠ぺい疑惑
2023年12月に発覚した鹿児島県警枕崎警察署の巡査部長(依願退職済み)による盗撮事件に関して、県警本部長による隠ぺいの疑いが持たれている。本部長は隠ぺいの指示を否定しているものの、関係者の主張には食い違いがみられる。
県警発表にもとづく事件経過
盗撮事件の発覚
2023年12月15日、鹿児島県枕崎市内のトイレで盗撮事件が発生。被害者が枕崎警察署に相談したことで、19日から署内での捜査がはじまった。
すると、犯行現場付近の防犯カメラに、署の捜査車両と同じ車種の車が映っており、その車に乗っていた署員(当時警備課に所属していた巡査部長)が犯人である可能性が浮上した。
22日、当時の枕崎署長が県警本部に電話し、当時の首席監察官に対し、事案を報告。
署は、警察官を被疑者として捜査を進めるのに必要な、本部長指揮事件への指定を期待していたと思われる。
「署で捜査を尽くせ」の指示
本部長指揮による捜査が開始すれば、盗撮事件を主管する県警本部生活安全部が引き継ぎ、主導して捜査を行うことになる。
人口1万8000人の枕崎市を管轄する枕崎署は、交番がひとつしかない小さな警察署。
通常どんな事件であっても、容疑者の顔見知りは捜査から外されるが、署内で捜査をつづければ、同僚同士で捜査するような状況になってしまうことをふまえると、枕崎署には追加の捜査人員など本部からの支援が必要だった。
ところが、署長から一報を受けた首席監察官は、当時の生活安全部長にも連絡して事案の内容を伝えたが、両者のやりとりは盗撮事件の主管部署を確認しただけで終わる。その後、首席監察官が本部長に事案を報告して指示を受け、本部長に指示した結果を生活安全部長に伝えたが、生活安全部から署に具体的な指導がなされることはなかった。
(※県警発表による。当時の生活安全部長は「事案の報告を受け、本部長に指揮伺いを行ったが、捜査開始にいたらなかった」と主張)
そして首席監察官を通じて枕崎署に返ってきたのは「署で捜査を尽くせ。教養(署内研修)を実施しろ」という本部長指示。
しかし署では、想定と違う指示に混乱したのか、なぜか「捜査を中止して教養を実施しろ」と受け止められ、土日の23・24日の2日間捜査が中止される。
週明け、署内で「隠ぺいではないのか」「大丈夫か」との声が上がり、署長が再度首席監察官に確認したことで『伝達ミス』による誤解が発覚し、捜査が再開される。
ただし、このとき首席監察官から伝えられ、『伝達ミス』を招く原因となった指示を、枕崎署は書面に記録していない。
枕崎署での捜査と犯人逮捕
枕崎署ではその後、本部からの指示どおり「盗撮」などをテーマにした教養が実施され、盗撮を疑われていた巡査部長もふくむ全署員が参加し、非違事案(違法行為)防止のための考えを文章にまとめるなどした。
2024年1月17日には、被害者立ち合い実況見分を行い被害届を作成、3月19日に犯人浮上報告書が作られるも、本部長への報告はなされず。
3月25日発令の春の人事異動で枕崎署長が退職し、巡査部長は覆面パトカーで単独の外回りをおこなう警備課から、他の警察官と一緒にパトカーでパトロールすることが多い地域課に異動する。
年度が変わった5月1日に本部長指揮事件に指定され、本部生活安全部が事件を引き継ぎ、5月13日に容疑者の巡査部長が逮捕される。
逮捕後の捜査で、巡査部長は2019年9月から2023年12月まで4年間にわたり、勤務中もふくめて少なくとも80回の盗撮を行っていたことが判明したが、「教養」実施後の2023年12月から、逮捕される2024年5月までの約4ヶ月間は一度も盗撮を行っていなかった。
▶鹿児島県警が詳しい事件経過をまとめた「再発防止」文書はこちら
前生安部長による隠ぺい告発
2024年3月に鹿児島県警を退職し、2024年5月に国家公務員法守秘義務違反の疑いで逮捕された当時の生活安全部長が、2024年6月5日の裁判手続きの場において、2023年12月の事件発覚時、本部長に捜査開始のための指揮伺いを行ったところ、本部長は事件指揮簿に印鑑を押さず「泳がせよう」「最後のチャンスをやろう」と隠ぺいを指示されたと告発した。
別の警察官が巡回連絡簿を悪用し、一般市民に迷惑行為を行った事案についても、隠ぺいの疑いを主張。
また、2024年4月の県警によるウェブメディアへの家宅捜索で、この事件について記した自身作成の告発文書が発見されたことがきっかけとなり、盗撮を行った巡査部長が翌5月に逮捕されたと述べた。
南日本新聞2024年6月6日「捜査情報漏えいの疑いで逮捕・送検された男は、違法行為に及んだ動機を「組織への絶望」と語った。元警視正が明らかにした衝撃の内容〈意見陳述全文〉」
本部長および県警の主張(「再発防止策」文書より)
「署で捜査を尽くせ」と指示した理由
被害者は犯人を目撃しておらず、犯行状況が撮影された防犯カメラの映像もないなど、その段階では署員が犯人であるという証拠に乏しかったから。
引き続き枕崎警察署において捜査を尽くし、必要な証拠を収集した上で、 仮にその署員が被疑者として特定されることになれば、再び伺いを立てるよう指示をした。
教養の実施を指示した理由
その署員が犯人であった場合に、刑事事件として立件するまでの間に、同様の事案が起きるようなことはあってはならないと考えた。
直近に綱紀粛正の徹底を図る通達を出していたこともあり、あわせて非違事案防止の教養を行うようにとの指示をした。
事件発覚から逮捕まで5か月かかった理由
2023年10月から2024年3月にかけて発生した、大規模な内部情報の漏えい事件に県警を挙げての対応が続いたほか、春の人事異動によって首席監察官の異動と枕崎警察署長の退職があり、情報漏えい事件で4月8日に元公安課巡査長(逮捕時は曽於署地域課所属)を逮捕するなどしたため、捜査着手が2024年5月にずれこんだ。
前生安部長の主張に対する反論
本部長が2023年12月22日に当時の首席監察官から報告を受けた際、 生活安全部において、本部長指揮事件指揮簿が作成され、前生活安全部長が印鑑を押した事実は認められなかった。
また、前生活安全部長は、当時の首席監察官と同様 に、本部長を適切に補佐すべき立場にあったものの、前生活安全部長が本事案につ いて本部長に報告や指揮伺いをした事実は認められなかった。
警察庁の対応
前生安部長への捜査が終結したあとの6月24日から、警察庁は鹿児島県警に特別監察を実施したが、目的は隠ぺいの指示の有無の確認ではなく、あくまで多発した不祥事の再発防止。
警察庁は6月24日、特別監察チームが鹿児島県警本部に到着する前に「客観的に見て、本部長による隠蔽の指示はなかったことが明らか」とする文書をマスコミに配布し、一部の関係者からの聞き取り以外の調査はなされなかった。
特別監察の結果は、パリオリンピック期間中の8月2日に公表された。
本部長への長官訓戒処分
警察庁から本部長には「警察庁長官訓戒」がなされた。当時の首席監察官は、口頭厳重注意処分。
処分理由
本部長から、枕崎署において捜査を尽くすよう指示がおこなわれてからというもの、捜査状況のきめ細かい確認やその結果に応じた指示が行われていなかった。また、事件発覚当時、教養を実施するよう指示がなされたものの、その意図が分かりにくく、迅速適確に行わなければならないという捜査の基本に欠けるところがあったため。
訓戒は監督上の措置と呼ばれるもので、停職・減給などの懲戒にいたらない、より軽い処分。
事件関係者の反応
当時の生活安全部長∶2024年6月に国家公務員法守秘義務違反の罪で起訴されたため、公判でふたたび本部長による隠ぺいを訴えるとみられる。(2024/6/28報道)
当時の首席監察官(今の鹿児島中央署長)∶KKB鹿児島放送の取材に「県警の発表している通り」と繰り返した(2024/9/7〜放送 テレビ朝日系「テレメンタリー2024」より)
当時の枕崎署長∶KKB鹿児島放送の取材には応えず(2024/9/7〜放送 テレビ朝日系「テレメンタリー2024」より)
盗撮を行った元巡査部長∶「教養を受けたから盗撮をやめたのか」という南日本新聞の取材に回答せず(2024/9/8報道)
隠ぺい疑惑に関する主な報道など(参考文献)
メディアへの家宅捜索後に逮捕を急いだのでは?
西日本新聞2024年7月3日「鹿児島県警枕崎署員の盗撮 本部長は隠蔽否定でも…メディア捜索後に逮捕急ぐ?」
調書の日付誤記が発覚
南日本新聞2024年7月2日「鹿児島県警「隠ぺい」疑惑の警官盗撮事件…実況見分日を誤記、会見で誤って発表 指摘受け報道各社へ訂正」
首席監察官が署に本部長指示を伝える変則的な事件対応
南日本新聞2024年7月13日「【検証・鹿児島県警巡査部長盗撮】警官関与の疑いがあれば「本部長指揮」のはずが当該所轄事案 捜査中断…異例続きの捜査指揮に、現職・OB捜査員からも「常識では考えられない」といぶかしむ声」
県警が確認したとみられる防犯カメラ映像に映っていた車両は、一般的に警察車両にしか使われていないスズキ・キザシという車種。
「ばれているぞ」と暗に伝えるような教養の実施
南日本新聞2024年7月14日「【検証・鹿児島県警巡査部長盗撮】深まる謎…疑いのある警官は本部長指示に基づき「盗撮」テーマの研修会を受けた。逮捕まで5カ月、県警は「事件を隠せなくなったから捜査した事実はない」と言うが、内部にも疑問の声は止まらない」
捜査中断中に盗撮が行われていたことが発覚
南日本新聞2024年7月24日「鹿児島県警隠ぺい疑惑 捜査中止〝空白の2日間〟にも盗撮実行か 県警は問題視せず「当時は被疑者として未特定」 スマホから画像見つかる
本部長は、「刑事事件として立件するまでの間に、同様の事案が起きるようなことはあってはならないと考え、教養を行うようにとの指示も行った」わけだが、後手に回っていたうちに被害者が増えたことになる。だがこの事実について、6月21日の会見や、7月19日の県議会総務警察委員会で県警からの説明はなされず、報道を通じて発覚した。
署から「隠ぺいではないのか」との声
南日本新聞2024年7月20日「鹿児島県警枕崎署員による盗撮 捜査一時中断は「隠蔽にならないか」と署内で懸念の声が出ていた 不祥事調査の県議会委で県警答弁」
本部長による伝達ミスが起きた原因の推測
「伝達ミス」が書面に記録されていないことが発覚
南日本新聞2024年9月3日「鹿児島県警、隠ぺい疑惑の署員盗撮事件で本部からの指示を記録に残さず 口頭のみで誤解生じ捜査が一時中断しても「問題ない」」
警察関係者による解説・意見
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