銀魂最大の恋愛物語-神晃江華と大人から見たパピマミ命題と雑記(と少しだけ虚)

銀魂の重大なネタバレを含みます。

烙陽決戦篇は神楽vs神威の決着篇でついに神威が父親殺し(片腕喪失)に至った理由が明かされます。銀魂のテーマの一つ自分の弱さとの戦いは、神楽が初登場から持ち続けていた夜兎の血との戦いとしてクライマックスに達します。

母である江華は徨安のアルタナ変異体で星(徨安)から離れて生きる事はできないのですが、神晃に連れられ徨安から離れて暮らす事で命を落としてしまいます。神晃が江華を死に追いやった事実が神威を父親殺しに追い立てるのですが、もう一つ大事な前提があると考えます。

徨安は死の星、滅びゆく星。
神晃が”種の存続”を察知しておっ勃った。
江華が神晃から12日間姿を消した際オロチは静かに立っていた。
オロチが江華を見送る際今までありがとうと言っている(ように神晃には見えた)。

江華:「あの星を離れた時からこうなる事(死ぬ事)は覚悟していた」「私もあの星も枯れ果ててしまった」「今さら戻っても私の体はもう」
神晃:「アルタナの枯れ果てた死の星」「嫁を延命するためコイツ(徨安のアルタナ結晶石)をかき集めていた」「少しの間死を先延ばす事しかできなかった」

神晃が虚にぶち込んだ徨安の結晶石は、江華への”最後の”プレゼント。

つまり
徨安は”アルタナが尽きてしまった”死の星。
江華は神晃が連れ出さずともいずれ死ぬ運命だった。

これが神晃江華の最大の前提だと思います。
徨安のアルタナがまだふんだんにあるのなら神晃が通い婚するという手があります。宇宙を見て回りたいのなら徨安に時々帰りながらでも出来たはずです。なんせ神晃は宇宙一のエイリアンハンターなのですから。
それでも江華は徨安をでる事を決めた。最後の居場所に神晃を選んだ。そしてオロチもそれを祝福した。長い自分の人生の最後の死に場所を自分で選んだのだと思います。

神威は自分達の存在が江華を死に追いやったと絶望し夜兎の血を暴走させる。しかし江華にとっては神威と神楽こそ自分の人生を生きた証。失う事から逃げずにその罪も神晃江華の愛も受け止めた神楽が、神威を抱き止める事で家族4人がもう一度揃う。神楽がその愛を受け止める事ができたのは万事屋で手を伸ばし続けて繋ぎ止めた形のない絆があったから。神楽の物語の帰着としては最高点だと思います。

神晃江華だけ見れば滅びゆく星を背景にした運命のラブストーリーですが、神威神楽から見れば親の命を奪って生まれてきてしまった運命を背負っており銀魂の精神的にハードな面が強く出ています。
さらにパピマミ親目線にシフトすると、親の業を子供に負わせてしまう物語でもあるのです。アルタナ変異体でなくてもこの命題は現実世界の親(読者)にも突き刺さります。あくまで例えなのですが、死に至る病に侵された夫婦が子供を持った際、自分達ならどの時点でどこまで真実を子供に伝えるでしょうか?病でなくとも貧困なら?道ならぬ恋なら?出産年齢は?家督や親類関係は?家族の為に夢やキャリアを犠牲にした事は?パピマミ問題は決して物語の中のファンタジーではなく、現実社会に生きる親(読者)への命題ともなりうると思うのです。

家に居場所のない子供(読者)目線から見れば家族以外の名前のない絆は救いになりますし、銀魂最大の求心力はそこにあったと思います。しかし連載15年を経て大人になってしまった読者からしたら、自分(親)は完璧ではない事を知ってしまった。自分の方が子供に救われている事を知ってしまった。パピマミの罪は消える事はないけれども子供は100%親の影響を受けるわけではないという救いも少しだけ示してくれたのではないでしょうか。胸の焼けるような愚痴…ちょっとだけわかるよ海坊主…。

銀魂は魂の救いの物語であると同時に社会的政治的命題を外してしまうと読み解けないのではないかなと思いました。

【雑記】
もしかしたら神楽と神威は銀時と高杉の対比として決着を着ける構想もあったのかもしれません。親代わりの松陽を戦争を起こす事で結果死に追いやった村塾、その事実を受け止められない高杉は神威と同様、子供の頃から時間が止まったまま戦いに身をやつします。そして失う事を恐れず愛を受け止めた神楽と銀時が、あなたが生まれてきた事は(生き残ったことは)間違いではないとその罪を許す物語。陰陽師篇の銀時高杉がありえたなら読んでみたかったなと思います。

初読では、神楽が家族と自分の夜兎の血に決着をつける話なので、銀時は柳生篇のようにもう少し神楽を信じて見守ってもいいのでは?と思いました。しかし柳生篇と違うのは、こいつら本気で殺し合いをしているという点で、ある程度止めに入る必要はでてきます。多少のキャラブレは仕方ないかな。

海坊主が本能ではなく自分の言葉で江華を口説くために片玉潰したエピは、神威が夜兎の血をねじ伏せてバカ兄貴として神楽に向き合う事を読者に腹落ちさせるためにあえてギャグとして冒頭に入れたのだと思います。
またツイ感想で拝見したのが、神晃が江華を探すくだりの時間の引き算の演出。空知先生自身が語っていた物語の作り方テクニックが遺憾なく発揮されています。

夜兎の母性『徨安』は数百年前に惑星連合の総攻撃を受け滅亡。大地からアルタナが噴出し土は枯れ水は腐りオロチが荒れ狂う死の星。オロチといえば八岐大蛇そして製鉄です。徨安は遥か昔製鉄で栄えそして戦火に塗れ土壌汚染が起きたのかもしれないですね。

【虚について少しだけ】
烙陽決戦篇で神晃江華だけを抜き出せばムダのない完璧なプロットです。ストーリーテラー空知先生が長期間かけて練り上げてきたであろう事が伺えます。銀魂はおそらくほぼほぼ元ネタがあるのだとおもいますが、それを銀魂のキャラの物語として再編成する構成力は空知先生の一番の強みだと思います。

将軍暗殺篇と神威の兄ちゃんを掘りさげる話はかなり早くにできていた点、蓮篷篇は天鳥船とプロットが全く同じである点を考えると、将軍暗殺篇以降の各篇は独立に作られていたと思われます。
宇宙戦争を引き起こす必然性があったのは長谷川泰三(民)が天人との共生を謳うため。
そして話の作り込み具合から考えれば、アルタナが尽きればアルタナ変異体は死んでしまうという設定は虚ではなく江華のために作られたのではないでしょうか。
虚の不老不死を説明する為に江華の話を挟んだのではなく、虚に地球を滅ぼす動機を与え宇宙戦争を引き起こさせる為に江華からアルタナ変異体設定を再利用した。
ですのでなんで地球産の虚の血(アルタナ)で天人である天導衆が不老不死化しとるねんって矛盾が生まれてしまうのもしょうがないかなと思いました(不老不死になってもらわないと鍵入手できないからね。鍵入手したい設定でないと虚が10年間天導衆にいる理由がないからね)。


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