銀魂ラスボスの謎を整理する

銀魂の重大なネタバレを含みます。

以降批判的な内容も含まれますので、銀ノ魂篇にもやもやしてる方のみお進みください。


虚は千年前に生まれた。(77巻)
幽閉後殺戮を繰り返す。(66巻)
虚は500年前に朝廷に捕らえられた。(66巻)
朝廷は虚を暗殺組織奈落に任命。(66巻)
虚は奈落始祖となり為政者に仕えてきた。(62巻)
泰平の世に奈落は中央を追われる。(44巻)

奈落首領である松陽が朧(少年)を助け朧は奈落に入る。(66巻)
松陽が奈落から逃走。奈落から追われる。(66巻)
朧は松陽を逃し奈落に戻る。(66巻)

20年前:
天人襲来。(5巻)
銀時7歳。(27-20歳)
銀時は毛の生えてないガキ。(5巻)
幕府定々は天人と手を組む。(45巻)
攘夷戦争が始まる。(45巻)
天人が内政干渉。(45巻)
推測:この時点で奈落は天導衆直下となる。

推測10数年前:
松陽が銀時と出会う。
桂高杉が松下村塾に入る。

10数年前:
定々の元、奈落が寛政の大獄を主導。定々は朧の先代が頭で朧が手足と言っているので、虚と朧の間に首領がいた事になってしまう。(45巻)
虚は奈落先代首領と信女が言っているので矛盾が生じる。(60巻)
朧が松陽を捕らえさせる。(66巻)
大獄より松陽を奪還するため攘夷四天王が攘夷戦争参加。(45巻)
牢番信女が松陽から手習。(58巻60巻)

10年前:
朧の策略で銀時が松陽の首を刎ねる。(58巻)
攘夷四天王が別れるのは10年前。(51巻52巻)
松陽死亡時に虚により松陽の人格が消滅。(66巻)
松陽の死後、虚が復活。(66巻)
天導衆が虚は不老不死と気づき支配下に置く。(66巻)
虚は不死を餌に天導衆の一角となる。(66巻)
懐柔という名の監視。(66巻)

4年前:
沖田14歳時に異三郎の妻殺害。(60巻)
信女(少女)は奈落から逃走。(60巻)
虚は信女が裏切ったと思っている。(60巻)

現在:
虚は天導衆よりアルタナの鍵を強奪。(66巻)

【問題点①】
一国傾城篇では寛政の大獄を主導したのは朧ではなく先代首領と定々が言っており、朧も否定していない。
しかし信女は虚の事を先代首領と呼んでおり、虚が松陽を捕らえた事になってしまい矛盾が生じる。

【問題点②】
信女が異三郎と出会ったのは4年前、松陽から手習を受けたのは少なくとも10年前。6年たっても見た目どちらも少女で成長が見られない。頑張って12才-6才か。
60巻で信女は松陽と出会って初めて人を切れなかった、異三郎の妻子を殺せなかったと言っているが、6年は殺戮を繰り返してきた事になる。

【問題点③】
上記より一国傾城篇までのラスボスは天導衆で、途中からラスボス虚に変更したものと思われます(一国傾城篇で天照の名を出してしまったから?) 。松陽の闇の部分を匂わせ始めるのは58巻で松陽が役人の刀を折るあたりからです。
ここで大問題なのが虚自体はそれほど時代を作ってはいない事です。奈落は天導衆が来るまで干されていますし、朧の見た目年齢を考えると奈落が天導衆直下になるのは虚が奈落を去った後です。虚復活後も虚は天導衆の一角にはなっても監視対象です。虚がさらば真選組篇に出てきたのは一橋派擁護ではなく、天導衆に従うフリをして鍵を手に入れるためと考えられます(他に理由がない)。

ここで対虚戦のテーマから時代の流れが消えて、鬼の剣では鬼は切れない人間の業に抗う事がテーマになってしまいます(ヘルシングかよ)。

このせいで銀ノ魂篇の地上戦は登場人物が”そこで戦う意義”を失ってしまいます(源外除く)。今までの万事屋との絆に対するアンサーと言えば感動的なシーンなのですが、繰り返しのストーリーは二回目に新しい意味付けが付与されるからこそ美味しいんです。

特に真選組。さらば真選組篇は敵を丸ごと救う近藤勲の大将としての集大成です。その理想に集う真選組が諦めかけた時に銀時が叫ぶ「戦え」が最大限の意味を持つのです。ところが銀ノ魂篇の近藤勇の「戦え」は、確かに銀時が諦めかけた時に放つアンサーとしてエモいのですが、一度目の感動よりは薄れています。松平のセリフ「喜々の国をぶっ潰すために兵隊かき集めてきた(のに解放軍と戦う事になった)」が表す通り、これまでの真選組の存在意義や魂の選択の流れをぶった斬るんですよね。全宇宙と戦う準備いつからしてたの。解放軍が虚に仕組まれたって信女に言われてほいほい納得したの。何というかちょっとカッコ悪いです…正直。

というシーンが延々続きます。3ページ前にも3日前にも10年前にも同じシーン見たよ…。そもそも地上戦のかぶき町組はまだ建前上は解放軍vs天道衆の認識なのでは?。銀ノ魂篇のっけからダイヤモンドパヒュームが解放軍は天導衆とついでに地球も侵略したいて言ってるけどまだ宣戦もされてないよ?。信女が触れ回ったって事?万の糸紡いでるの銀時じゃなくて信女だよね?

そして虚が解放軍を仕組んだのは宇宙巻き込んで自殺したいから(おそらく天人襲来を引き起こさせるための設定)…。虚と時代の流れが絡まないためアンサーシーンもただの二番煎じとなってしまっています。

【問題点④】
朧の見た目を考えると松陽が奈落を抜けたのは天人襲来前。少なくとも寛政の大獄で捕まったのは虚ではなく松陽。つまり松陽前の虚自体は天人襲来も攘夷戦争も天道衆も関連がない。松陽死後に初めて天道衆と接触する。

松陽を奪ったのは幕府-天道衆-奈落(朧)。そして攘夷戦争を始めてしまった村塾生自身。

つまり攘夷戦争自体はやはり幕府(と天道衆)の討伐が主であり、銀時達の攘夷戦争も幕府(と天道衆)から松陽を取り戻す事が主です。虚自体が先生を奪った世界を作ったわけではありません。松陽以前の虚は為政者の道具でむしろ時代の流れに翻弄される側です。

銀ノ魂篇にて銀時や桂が虚と戦うのは今守るものがあるからですが、高杉にはそれがありません。高杉はある程度将軍暗殺篇で救われており、松陽殺害は朧が主導した事が明らかになった以上、高杉は戦い続ける意義を失うのです。攘夷戦争の中心である定々も幕府も天道衆も銀ノ魂篇ではすでに瓦解しています。真選組の地上戦と同じく、高杉が今まで戦ってきた流れをぶった斬っています。

松陽が抗い続けた虚を倒す事が、松陽の魂を守る事だとして、果たして銀ノ魂篇での高杉にその自覚があったでしょうか?あったとして天鳥船で高杉が戦ってるのは虚の自殺道具ですよ?銀時の贖罪を代わりに背負って死ぬために戦う?銀時は高杉いなくてもかぶき町で勝手に万の糸に救われていってますよ?天鳥船は将軍(前時代)の終わりと新時代での戦い方(戦争ではなく共生)がメインテーマですが、地球を救う高杉…らしくなさ全開です。地上戦は(信女が)よろずの糸を紡ぐので精一杯で高杉の入る余地がありません。

だから2年後にて高杉が虚を倒し松陽の魂を守る物語を作った。自分の弱さと戦う松陽の魂はすでに万事屋を始めとする次世代に受け継がれています。この事自体が松陽の最大の願いであり、松陽の魂はすでに2年前に救われているとも読めます。やはり2年後はメインテーマから溢れてしまった鬼兵隊へのレクイエムだと考えます。

とはいえ銀魂最大のテーマ、形のない愛の繋がり、愛とは呼べない代物、万の絆をブレなく描き続けてくれたことは読者として最大にありがとうきびうんこと叫ばせていただきます。例え吐き捨てられた一言のレビューであっても、その裏には膨大な作品への愛と期待を込めていると思うのです。

人の心を動かす作品は銀の刃となって読者の魂を切り付ける一方、返す刀で作者にも傷を負わせる事もあるかと思います。きっと何かを作り続ける人達はその業に自覚的でないと潰れてしまいますよね。

空知先生が作り上げた長谷川泰三は、天人が吐き捨てた希望のコインを拾い上げました。先生は今でもそのコインを拾い続けていますか?

空知英秋先生の次回作、楽しみにしています。

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