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写真批評 サシイロ 8 〜写真の肌理(キメ)を見る

石内都の展覧会「肌理と写真」が横浜美術館で開催中である。
石内都といえば、染織の知識を生かした肌理の粗い白黒写真である。彼女の現像手法は独特だ。
代表作の写真集は木村伊兵衛賞を受賞したapartmentだが、それ以外にも建物を写したものが多く、取り壊し前の壁等を陰影の強い写真で切り取っている。
冒頭の写真も、その1つだ。

石内都の写真のその粗い肌理に、見る者は何を見るのか。写真の肌理は、見る者に何を思わせるのか。それは、大きく言って2つあるように思われる。

1つ目は、時間の経過である。風化したペンキ、壁、崩れかけた階段。こうしたものが作り出す陰影が、これでもかと強調された写真は、その影1つ1つが作り出されるに至った膨大な時間の積み重ねに思い至る。
私達は生きている。一生を長いと思うか、短いと思うか。生きることを許される時間は、人と建物はだいぶ違うけれど、それらは全て同じ時間の単位の積み重ねである。それは膨大な反物が全て繊維、つまり糸から出来ることと同じであり、石内都のコンセプトでもある。

もう一つは、そこで暮らした人々の思いである。撮られた被写体は建物等の無機質なものだが、そこで作り出された陰影には、そこで暮らした者たちの確かな生活感がある。
喜びや哀しみ、希望や挫折、喪失感、郷愁。そういうものが、そこにはある。

最近の石内都はカラー写真も撮っているようで、展覧会にはその写真もあるそうだ。展覧会でモノクロからカラー写真へ、技術革新に裏打ちされた石内都が生きてきた時間の流れを感じるのもいいかもしれない。
そこには、何か必ず自分と共通する体験や思いを発見できるだろう。

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