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写真批評 サシイロ 5 〜ここに存在することの希少性

現在パリでアーヴィング・ペン展が開かれていると聞いた。
アーヴィング・ペンといえば、雑誌VOGUEの表紙を飾ってきたポートレート写真家として有名である。彼は主に白黒写真によるポートレート写真を好んで撮ったが、モノクロームにすることで、被写体の人物が日常という枠から解放され、普段見せたことのない被写体の一面を抉り出している。そんな気がする。
ファッション誌なのだから、洋服の宣伝のためにはカラーでなければ意味がないのでは?との疑問を一笑に付すくらいの独自の芸術的世界観がそこには展開されている。

アーヴィング・ペンは工芸学校を卒業し、初めはスチルライフフォトに取り組んでいたという。スチルライフフォトについては、精巧な静物画との比較で、むしろ静物画の方が画家の独自の画術による雰囲気が出ていてスチルライフフォトより好ましく思われる人も多いかもしれない。
しかし、アーヴィング・ペンのスチルライフフォトは、どうだろうか。

この写真をむしろ絵画にすると、逆に温かさがプラスされ、「ここに存在することの希少性」が薄れてしまうように思われるのは私だけだろうか。
アーヴィング・ペンの写真家としての覚悟は、この希少性を人々に気付かせることにあったといえる。
こうしたスタンスをアーヴィング・ペンはスチルライフフォトから学び、ファッションのポートレート写真にも活かした写真家である。

物や人との出会いは、一期一会であり、それは決して偶然ではなく、必然である。その一方で、必然という響きに漫然とせず、一瞬一瞬を大切に自分の記憶に刻みつけるべきだということをアーヴィング・ペンの写真は私たちに教えてくれているのだ。

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