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写真批評 サシイロ 1〜モノクロ写真に惹かれて

写真を鑑賞する時、私達は撮られた被写体を見るのではなく、被写体に対するカメラマンの視線を見ることになる。この複雑な構造が、写真鑑賞の面白さの1つだ。

写真は、撮る者が試される。撮った写真には、撮った者の人間性が表れる。人間性というのは言いかえると、被写体に対して抱くカメラマンの心情である。それは被写体とカメラマンの関係性として写真に表れる。
そして、特にモノクロ写真の場合にそれは顕著に表れるのだ。

なぜならモノクロ写真の中で、世界は白と黒、光と闇、明るさと暗さに単純化され、シンプルになった写真はもはや写真の枠を超え、1つの主張を発信する媒体になるからだ。余計な装飾を削ぎ落とした主張は鋭さを増し、一直線に見る者の心に刺さって何かを問いかけてくる。

例えば日頃見慣れている光景。そばにいるのが当たり前のあの人。自分が捨ててきた故郷。
大切なものに対して人が抱く感情は、複雑だ。愛情や郷愁、執着とそういった感情とは相反する反発や否定、自由への渇望など。モノクロームは、光と闇の二項対立の中で、こういった相反する感情を露わにするのだ。

写真から受け取ったこういった矛盾する感情は、その写真を見た者の中にも確かに存在する。写真を見ることによって、否が応でも自分の中にある矛盾する感情を明確に意識させられることになるのだ。その気付きは、自分が本当はどうしたいのか、進むべき道はどこなのか、自分自身に問いかけてくるだろう。もしかしたら、人生の方向性を変えてしまう程の衝撃的な気付きになるかもしれない。

だからモノクロ写真は、面白いのである。

※冒頭の写真は、森山大道 秦野・神奈川より

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