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写真批評 サシイロ 2 〜喪失と讃歌

愛を失った時、人はその愛を得た経験自体を無かった方がよかったと思うだろうか。その愛をくれた人と出会わなければよかったと思うだろうか。
もし、あなたがそう思うのなら、あなたは本当の愛を知らない人かもしれない。

冒頭の写真は荒木経惟の「愛ノ花」からだ。これは単に花を撮ったものではなく、花に妻の陽子さんを重ねて撮ったものであることは改めて言うまでもない。
花は咲き始めも花盛りの時期も趣きがあるが、この写真集の特徴は、花が枯れていく最期の瞬間が収められていることだろう。
それは撮影者にとっては、喪失へ向かう痛みの瞬間である。そしてそれは荒木の場合、妻陽子さんを亡くす過程の追憶でもあったはずだ。大事な人、自分の一部分とも言える人を失う追体験は、どれほどの痛みだったか。そうまでして、荒木が伝えたかったものは何なのか。

それは愛への讃歌である。
これから来る喪失の哀しみに裏付けられ、最期の瞬間は、残された命を燃やし尽くすことで生まれる独特の重厚な輝きを見せる。それはもはや哀しみを超越し、神々しささえ感じさせる。失う痛みを覚悟してもなお表現したかった、愛への感謝。これが「愛ノ花」のテーマだ。

こんな境地に達することができる愛に巡りあえる人は、この世界でどれくらいいるか。そんな風に思うのなら、もっと身の周りをよく見渡してみるといい。何も男女の間にだけ、愛が存在するわけではない。
あなたを愛してくれる誰かを探したいなら、まずはあなたが愛を示すことだ。
全てはそこから始まるのである。

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