マガジンのカバー画像

写真批評 サシイロ

22
様々な写真家の写真を批評した評論。 変わりばえしないモノトーンな日常に色が射すように、あなたの気付きになればという思いを込めて。
運営しているクリエイター

2018年4月の記事一覧

写真批評  サシイロ  19  〜見たことのない景色  後編

写真批評 サシイロ 19 〜見たことのない景色 後編

さて、風景写真の最終回は、廃墟写真を取り上げる。
なぜ廃墟写真が風景写真についての批評の最終回になるのか。風景写真は、見たことのない景色を写したものという定義づけを行ったが、見たことのない景色というのは、実際に秘境やなかなか公開されない景色やモノもそうだし、見る視点、例えば縮尺などを変えて見た景色もそうだろうし、更には人間の寿命という限られた時間以上の時間の作用で変化した景色もそれに当たると考えら

もっとみる
写真批評  サシイロ  18  〜見たことのない景色  中編

写真批評 サシイロ 18 〜見たことのない景色 中編

前回より風景写真が果たす役割について考察しているが、見たことのない景色とは、何も人があまり行ったことのない場所やほとんど公開されたことのない秘境に行かなければ遭遇できないものではない。

例えば、松江泰治氏という写真家がいる。彼は地表写真家とでも呼ぼうか。高度の高い宙から地表面を撮影している。視点の尺度を変えることで、私たちが日常暮らしている風景や集落、街が一変してしまうのは興味深い。
松江泰治氏

もっとみる
写真批評  サシイロ  17  〜見たことのない景色  前編

写真批評 サシイロ 17 〜見たことのない景色 前編

風景写真というジャンルがある。人気の高いジャンルの一つである。
風景写真を撮る動機は様々であり、今回から複数回かけて、その動機ごとに風景写真の果たす役割を明らかにしていきたい。
まず、今回は佐藤健寿氏の「奇界遺産」を取り上げたいと思う。

奇界な遺産というコンセプトは、いくつかの要素をクリアした風景のように思われる。例えば、民族や宗教的な背景に裏打ちされたもの。それが別の民族から見たら、まるでユー

もっとみる
写真批評  サシイロ  16  〜光=儚さの世界観

写真批評 サシイロ 16 〜光=儚さの世界観

モノクロ写真とは離れるが、光を撮る写真家として、印象的なのは川内倫子氏である。写真集「うたたね」は木村伊兵衛賞を受賞した有名な作品だが、彼女の淡い光の、青みがかった写真は、特に女性に人気があり、川内倫子氏の写真を真似て、同様の基調の写真を撮りたいとカメラを持つ女性は多い。

川内倫子氏の写真を見ていると、光、つまり彼女の撮る写真は、生のある絶対的な一瞬であり、それはいずれ訪れる死という影の存在

もっとみる
写真批評  サシイロ  15  〜ヌードの醍醐味

写真批評 サシイロ 15 〜ヌードの醍醐味

横浜美術館で「ヌードNUDE〜英国テートコレクションより」が開催中だ。ヌードは写真の世界でも被写体としていつの時代も人を魅了してやまないものの一つである。
ヌードに対しては、写真においては二つのアプローチ方法があるように思う。
一つ目はエロスを追求する方法であり、もう一つは、逆に一切のエロスを排除して身体のフォルムの芸術的な美しさを追求する方法である。
一つ目の方法によるアプローチは、エロスを創る

もっとみる