理想のサプライズ
「しゅうくん来週が誕生日だったよね、プレゼントはなにが欲しい?」
「あ、えーと……じゃあ」
僕の彼女はサプライズが好きだ。
そんな彼女が誕生日に欲しいプレゼントを聞いてきた。
「そろそろ寒くなるし……て、手袋かな」
いつもの彼女なら誕生日の話なんか当日までしないで、クールな素振りで僕を不安にさせといて、それで当日は盛大に祝ってくれるんだ。
だから彼女のいきなりの言葉に僕はちょっと驚いて、咄嗟に手袋だなんて言ってしまった。
「手袋ね、わかった。じゃあね!」
彼女はそれだけ言うと、颯爽と教室を出て行く。
いつもと違う彼女に僕は少し困惑した。
彼女に何かあったのだろうか、それとも僕のことを……。
なんだかよくわからない気持ちを、かぶりを振って誤魔化す。
そもそ僕はサプライズが嫌いだ。隠されたところで何もいいことはないし、悪いことが起こる可能性だってある。
例えば仮に誕生日プレゼントがサプライズだったら、彼女は僕のためを思ってサッカーシューズなんてプレゼンとしてくれるかもしれない。
でも僕はついこの前にお母さんから新しいシューズを貰ったし、今使ってるのもそんなにボロボロじゃないからまだ使っていける。
サッカーシューズじゃなくても、日用品ならあらかた揃っているしおこづかいも貯めてるから欲しいものは大抵買える。
サプライズプレゼントは必ずしもその人が欲しいものとは限らいことがわかるだろう?
だからサプライズはとてもリスキーで、無駄な行為だ。
僕はそう思いながら、手袋と言ったくせに今更寒さを感じて手のひらを擦り合わせた。
それからあっという間に一週間が経った。
僕の誕生日はパーティーになり、その準備も入念に行われた。
もちろん僕も準備に参加して、彼女と二人でケーキを買いに行ったり部屋を飾り付けしたりもした。
なんて計画的な誕生日パーティーなのだろうかと、僕は大喜びしている。
「改めてお誕生日おめでとう、しゅうくん」
「うん、ありがとう」
二人でケーキを食べて、僕の小さい頃のアルバムを見返して、最近のことを話して、そして誕生日プレゼントの時間になった。
「これ、欲しいって言ってた手袋」
「わぁっ……嬉しいな!」
貰ったのはとても暖かい橙色の手袋。
柄があるわけじゃないけどその手袋は僕の手をすっぽりと覆い隠して暖めてくれた。
よく見ると手の甲には小さなリボンが付いている。
「どうかな?もしかして趣味じゃない?」
「ううん、そんなことないよ。すっごい嬉しい!」
そう言うと彼女は少しはにかんだ。
誕生日パーティーも終わり、彼女は帰る。
僕はとても満足したはずなのに、どこか腑に落ちなかった。
……いいや、僕は確かに満足した。彼女は僕の性格を理解してくれて素晴らしい誕生日パーティーにしてくれたんだ!
それでもなにかを忘れている気がした。
なんて、変なことを考えながら僕は彼女を見送る。
「今日は本当にありがとう。嬉しかったよ」
心から僕は彼女に感謝を伝えた。
「そう」
彼女からはそんか返事が返ってくる。
すると彼女は、はたと足を止める。
「あの手袋ね」
夜風にたなびく彼女の髪は月光に照らされてキラキラと輝いて見える。
ぼくはそんな彼女に吸い込まれるように魅入ってしまう。
彼女はいつもの笑顔。見覚えのあるあの顔。
僕はようやく思い出した。
「私のお手製」
僕は彼女が好きだ。
サプライズ……と聞こえた気がした。