見出し画像

尖山(とがりやま・559m)から剱岳へ。~『笑われるかもしれないけど私、剱岳に登ってみたいんです』と言った女性の軌跡~【第1回・中山(1255m)】

剱岳。
それは、いわずと知れた、本邦山岳最難関に位置付けられる山。
尖山。
「とがりやま」と呼ばれるその山は、登山のグレーディングとしては、10段階中「1」に位置付けられる往復2時間ほどの山。
富山県民で登山を始めるなら、まずはここからという方も多いのではないだろうか。

今年5月、初めてお会いしたその方は、会話の中でこう言った。
「笑われるかもしれないけど、私、剱岳の頂上に立ってみたいんです。」
僕は、その言葉をもちろん笑わずに受け止めた。

チャレンジをする人を応援したい。
それが無謀なのかどうなのかは、とりあえず一歩を踏み出してみないと分からない。
大切なのは、ひとえにモチベーション。
その炎が燃え続ける限り、いつかは遠い目標にも、到達できるだろう。
山のプロとして、そのチャレンジのお手伝いをさせていただく。
こちらとしても、とてもやりがいのある仕事だ。

話を進めていくと登山歴は浅く、普段は尖山を登っている程度だとのことだった。
まずは、中山(1255m)でお手並み拝見というところだ。

なにか大きな目標を掲げ、それを達成に導くには、「適切なステップ」を刻んでいくことが、何より大切だ。
ここでいう「適切なステップ」というのは、「適切な登山の経験」ということだ。
それをお客様と共有していく中で、ガイドは山のプロとして必要な技術などを惜しみなく伝えていく。

急傾斜。
ミスをすると滑落にもつながるような危険個所でまず意識することは、
『重心の位置』
人間はミスをする生き物。
転倒した時に致命的な事態に陥らないように、「重心の位置」を意識しながら切り抜けよう。

この日は真夏日予報でしたが、低山で登山道が8割がた樹林に覆われていたので、想定していたよりは暑さにやられませんでしたね。
後ろに、剱岳。
最終目標の山です。

さあ、下降に入りますよ。
まずは、ストックの長さを長めに変更しましょう。

下降時のイヤな奴「段差」がきたら、『サイドステップ』も有効。
足腰に何の不安もなければそのまま前を向いて歩いていけば良いけど、不安を感じたら横向きに。
重心を山側に残しながら、膝をバネのように意識してそっと着地。
そうすると、着地時の衝撃を自然なカタチで横方向に「逃がす」ことができ、ひざ、大腿部の負担を軽減することができます。
山側の足は、先行で下ろした足に添えてくるだけ。

さあでは、さらに急な段差や、サイドステップが上手くいかないような段差が来たらどうする?
そうその答えは、伝家の宝刀
『バックステップ』
この技術の習得は、今後いわゆる「上級ルート」に向かいたい方には必須の歩行技術となります。
バックステップの一番の利点は、
自然に「滑落しない最も理にかなった姿勢を取れる」
ことです。
最初は、後ろ向くのに時間かかるし、なにより下の方が見にくいし・・・。
これを習得するには、根気とそれなりの時間、場数が必要です。
あと、ストックは片手にまとめて、手で支えとなる岩や木を掴みますよ。

剱岳のルート上でも「バックステップ」を求められる場所はたくさんありますから、今から意図的にやっていく必要があるでしょう。

ヤマアジサイが、気品のある色合いで咲いていました。

馬場島荘で、池田さんの手打ちそばをいただきながらのランチミーテイング。
体力は、思っていたよりありましたね!
とりあえず、出だしは順調かな?
今日習ったことを忘れないうちに、ご自分の「登山note」に書きつけておきましょう。

おつかれさまでした!

~次回予告~
 100名山・薬師岳(2926m)
 ・標高差1500m程度の登山の経験
 ・山小屋に泊まってみよう

(山岳ガイド 香川浩士)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?