新人・剱岳ガイドの夏休みin池ノ谷
令和2年8月下旬。僕はパートナーと2人、剱岳は池ノ谷に向かった。
昔は「行けぬ谷」と言われていたのが訛って「いけのたん」になったとも言われる剱岳・池ノ谷。剱を真剣に志す者には、今も昔も特別な場所だ。
目指すは、池ノ谷の中央に鎮座する岩壁。ネットを調べても情報は皆無だ。予想される様々な困難に備えて、ザックの中身は登攀具で埋まった。
「剱岳西面は上級者の領域」、これもガイドブックによく書かれている。行けば分かることだが、剱西面はひとえにその岩質の脆さ、そして雪渓の残り具合、加えてルンゼを登ったり降ったりのアプローチの複雑さ、これらがクライマーに総合力を求めてくるのだ。リスクマネジメントの甘さは、致命傷となる。
僕らの今回の池ノ谷行は、完全に失敗に終わった。なぜなら、目的の岩壁にすら触れなかったのだから。しかし振り返ってみると、そのアプローチだけでも「完全なるアドベンチャーの世界」であったと思うし、大きな疲労感と妙な充足感を覚えたので、ここに紹介しようと思います(笑)
険悪な雪渓のお出迎え
(池ノ谷左股、上の二俣からR2を目指す)
巨龍の喉元へいざ‼️
(同所その2)
劣化した捨て縄から、もう何年も人間が通っていないであろう落石の巣、αルンゼを下降すると…
薄いガスの中から姿を現した巨大な壁は、光に包まれて神々しささえ醸し出していた。
壁に取り付いてしまえば、今日中に抜けられないのは明白。そもそもここまでで心身共に消耗してしまっている。我々は、「今回はここまで」と互いに納得し、垂らして置いたフィックスロープを登り返しながら、また長くて危険な帰路についた。
この夏の個人山行。記録としては完敗だが、妙な充実感を感じている自分もいる…。
20数年前、初めて剱岳と邂逅してから今日まで、剱と共にあった。そして剱岳の山岳ガイドとなった今、進むべき道は…?
いつだって剱に聞けば、その答えは返ってくる。そしてこれからも、剱が答えてくれる以上は、剱のガイドとして精進していきたい。
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