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令和5年の「夏剱ガイド」を振り返って。

10月第一週の剱岳ガイドを最後に、令和5年の剱岳ガイドが終わった。

剱岳に強い思い入れを持つ地元ガイドとして、今年のガイド活動を振り返っておきたい。

今年の「夏剱ガイド」のスタートは、写真家・高橋敬市さんからの「三ノ窓氷河」のオファーから始まった。
標高差約1000mを真っ直ぐに落ちてくる男性的なこの氷河は、僕自身も久しぶりで、ガイドをしながらも楽しませてもらった。
最上部の「のど」の通過がポイントとなる。

順調だった撮影のガイド行は、偶然、小窓の王基部で2人の墜死したクライマーを発見してしまったことで、一時的に厳しい雰囲気に包まれた。
直ぐに富山県警山岳警備隊に連絡し、遺体の回収の段取りに協力する。
「剱の岩場で失敗するとこうなる・・・。」
この山に通って四半世紀が経つが、改めてその厳しさを突き付けられたような気がした。

剱バリエーションのオファーも、複数入るようになってきた。
やはり、剱バリエーションのガイドは充実感がある。
源次郎尾根では、お客様の登攀力不足による敗退もあった。
しかしそのお客様は諦めることなく、来夏のリベンジ山行にむけてクライミングジムに通い続ける日々である。(写真と文章の内容は関係ありません)

この夏にはまた、初めて剱岳に挑戦されるお客様のサポートもさせていただいた。
そのステップとして、戸隠山(長野県)での岩稜登下降、鎖場の登下降を行うのは、自分のガイドとしてのルーティンワークとなってきている感がある。

夏の間の「常宿」になる剣沢小屋さんには、今年もたくさんお世話になった。この小屋の前のベンチから仰ぎ見る剱岳は、随一の景観だ。
剱岳アタック前に緊張感をもって仰ぎ見るのも良し。
登頂を果たして、無事小屋に帰ってきてからビールやジュースを片手に眺めるのも、また良し。

8月には、穂高岳「ジャンダルム」に『遠征』。
個人的に「剱岳しかガイドできない」というのはカッコ悪いと思っているので、毎年、槍穂高方面の「難路」やバリエーションルートをガイドするようにしています。

老若男女、できるだけ幅広い方の剱岳登山をサポートしたい。
この思いを胸に、毎年ガイドしています。
今年は、御年76歳のお客様の剱岳登頂をサポートしました。
高齢登山には様々なリスクがあり、「誰でも良い」というわけにはいきませんが、普段からのトレーニング状況や登山歴、持病の有無など身体の状況等を総合的に勘案して、催行の可否を判断させていただいております。

また剱岳ではありませんでしたが、ある山小屋さんからのご紹介で、カナダからのお客様を立山にお連れしました。
「カタコトの英語」と「グーグル翻訳」を駆使してコミュニケーションを図りましたが、お客様は終始笑顔で、初めての立山登山を楽しんでいただけたのではないかと考えています。
日本の情勢的には、今後も外国人観光客は増えていくでしょう。
そのなかで、「体験」を求める外国人観光客からは、「剱岳ガイド」のオファーも来るかもしれません。
ガイドとして、今後の検討課題の一つです。

9月。
それは、早月尾根の季節といっても良いだろう。
単体の尾根では日本一の標高差(2200m)を誇るこの尾根のガイドも外せない。
また、この尾根からのガイドをオファーしていただけるお客様がいることも、有難い。
早月小屋の若主人、佐伯堅太郎君とツーショット。
先代の謙さん(佐伯謙一さん)には、警備隊時代にとてもお世話になった。だとしたら、今度はこの若い堅太郎君を応援していくのがスジだろう。
けれんみの無い好青年である彼は現在、彼女募集中である(R5年9月時点)(笑)

今年は雪がとても少なく、雪を利用して歩くバリエーションルートのガイドでは悩まされた。
「9月の北方稜線」もこれまでは定番だったが、今年は小窓氷河の状態が早々に厳しい状態に陥った。
「雪渓の安定度」を見極めるのはかなり難しい。
結果論で「行けました!」などというSNS上の情報は氾濫しているが、それを確証をもって行けている登山者はほとんどいないだろう。
雪は怖い。
雪渓はある意味なおさらだ。

9月半ば。
雪渓を歩ける装備は持って行ったが、小窓氷河をから頻繁に聞こえてくる崩落の音を耳にした瞬間、池の平山への稜線コースを取る決断をするのに時間はかからなかった。
池の平山への稜線コースは、急斜面の登り返しになり、自前のロープは必携となる。
もちろん、ルートファインディング力も。
一応残置ロープやマーキングはあったが、それらをあてにしていてはいけない。

シーズン終盤には、意欲的なオファーが相次いだ。
「早月ワンデイ」ガイドの依頼はその一つだ。
プライベートでの「早月ワンデイ」ならば、なにか調子が悪ければ途中で下山すればよいが、ガイドとなるとそうはいかない。
時間のマネジメントにはかなり慎重になるし、ペースもそうだ。
早いトレイルランナーに惑わされてもいけないし、終始気の抜けないガイドだったが、余裕をもって明るいうちに馬場島に下りてきた時には、ノーマルな1泊2日のガイドの時とは一味違う達成感、充実感を感じたのも事実だ。

10月となり今年の最後を飾ったのは、ウルトラトレイルレースをこなす「ガチな」トレイルランナーのお客様だった。
どの分野でもそうだが、本格的に取り組んでいる方からは、学ぶことも多い。
準備運動の仕方から休憩の取り方、行動食、果てはポジティブなメンタリティーなど、こちらが学ぶことが多かったなというガイド山行だった。

無事故で終わることができた「夏剱」のガイドだったが、ヒヤッとする瞬間はあったのも事実だ。
「ここでは大丈夫だろう」というところで転倒してしまうのがお客様でもある。
経験を重ねるごとに、慎重さも重ねていきたい。

最後に、この無雪期シーズン、当ガイドにオファーをいただき、山行を共にしていただいたすべてのクライアントの皆様。
そして、快適な環境を提供してくださった多くの山小屋スタッフの皆様に感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
そしてこれからも、引き続きよろしくお願いいたします。

山岳ガイド 香川浩士

三の窓氷河を登る当ガイド(高橋敬市著/剱岳遠近より)


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