冬剱を前に。

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『ガシャ、ガコッ!』

トレーニング用の赤紫色の「ボッカザック」に、重し用の石やバーベルのプレートを入れる。これから始まる単純で高負荷のトレーニングに、既にメンタルは重い。

小雨そぼ降る初冬のある日、私は上市のあるお寺の階段、その名も「百段坂」に向かった。

初めてここに来たのは、もう10年も前か。

この石段、途中で左に折れる僕の設定ルートで片道155段。

これを最低、1000段は登るようにひたすら登り降りを繰り返す。

大相撲の史上最強横綱・白鵬は、だれよりも四股(しこ)のトレーニングを行っているという。

また、プロ野球、本塁打世界記録保持者の王貞治氏は、若いころ、朝晩500回ずつの素振りを欠かさなかったという。

これは、いかに基本となるトレーニングが大切か、ということを、先達が結果で示してくれていると言えよう。

翻って、登山の世界では、どうなのか。

ガイドになって、あるいは講習会時に、「登山において、どんなトレーニングが有効ですか?」ということを聞かれる。

私はこれに対し「ボッカです。」と答えている。

「ボッカ」とは、「歩荷」。

歩荷とは調べてみると、「重い荷物を背負って山へ上げること。また、それを職業とする人」とある。

20代の警備隊時代は、記録への挑戦、何キロまで担げるかということに熱を上げた。50kg、60kg、70kg・・・。

その過程で、背負子が壊れた。フレーム部分は金属製なので頑丈だったが、腕を通して担ぐ部分がちぎれた。単純に、耐荷重オーバーであった。

歳と共に歩荷力の衰えを感じ、現在40歳代。トレーニングで担ぐ重さも、全盛期の半分程度だ。古傷を痛めては、元も子もない。

自分の身体の限界点と、わずかに残る伸びしろとの境界線を探りながら、今日も百段坂を登る。

来るべき、「冬剱」との戦いに備えて・・・。

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