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「連れて行きたい場所」というアンケートに答えました :湯田オルガンズメロディ

以下、ダラダラと。湯田Organ’s Melodyについて。

500mほどの輝く街並み。この街のメインストリートだ。一本道を違えると学生アパートの乱立する街。小さな街。湯田温泉街、略して湯田街と呼ばれるこの通りを庭として学生時代を過ごした。出会う人、出会う人、皆何の変哲も無い顔をしているのにどこか面妖で、ここは妖怪の街か、はたまた年中ハロウィンパーティか、といった風情だ。

オルガンズメロディという小さなライブハウスを知ったのは、療養のための休学を終えてこの街に戻った頃だ。休学期間中に同期はみな卒業してしまい知り合いなんて居なかった。大学で留年生だと落ちこぼれ扱いされる生活に嫌気がさして湯田街を飲み歩いている時見つけたのがこのライブハウスだ。
フラフラと歩いて居酒屋から帰る道すがら、ドアの前を通る時聞こえた篭った音が気になったのがそもそもの始まりだった。酔っ払いだと自認しながら、そのドアを、どれだけ長いこと眺めていただろうか。そこからひとりの男性が出てきて我に返った。男性がドアをすり抜ける合間を縫って大きな音が流れでてくる。

高身長、痩せ型、赤いスカジャン、虎の刺繍、金髪、どこからどう見てもチンピラといった風体。彼がタバコに火をつける様を、よせば良いのにジロジロと眺めた挙句、よせばいいのに話しかけてしまった。「大きな音がしてますね」という間抜けな問いかけに一瞬目をパチクリとさせて、煙を吐き出しながら口を開いた彼曰く、ここはライブハウスなのだと言う。もうずっと、10年以上前から、ここでは毎夜音が生まれているらしい。
「入ってみればいい、怖いところじゃない」という、どうにも説得力のない言葉を受けて、気付けば入場料を払い後ろの方からステージを眺めていた。

1人の演者が演奏を終えて次の演者が準備する、その間だけ客席が明るくなる。お客同士が雑談を始める。そんな中突っ立っていたら肩を叩かれた。先ほどの彼だ。
「ライブハウス、くるの始めてなんじゃろ?」
「受付でもらったトランプ、ドリンクチケットやけ何か飲みんちゃい」
カウンターに行ってトランプを差し出すと何にするかと聞かれ、メニューの1番上に書かれていたコーラを注文した。
大きめの透明なプラカップの中にはギッチリと氷が詰まっていて、その隙間がコーラで満たされている。一口飲んで甘いものが苦手な事を思い出したが後の祭りで、チビチビと飲みながら空いていたソファに座った。

そうこうしているうちに客席が暗くなってステージに明かりがつく。次はバンドの演奏らしい。よくよく見ると先ほどの彼がベースを抱えている。

爆音。

耳をつん裂く女性ボーカルの叫び声。

耳栓が欲しいなどと思いながら、それでも音の振動が心地よいと感じて、以来このオルガンズメロディに足を向ける事が増えた。

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ソファに座れる小さなライブハウスに、私はあなたを連れて行きたく存じます

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