それでは実験しますよ

「それでは実験しますよ。」I先生が言いました。
「だけど、そう、その、前に、みんなに一つだけ聞いておきましょう。
アやイやウの人はどのくらい重さが違うと思うのですか。
10㎏くらい?それとも100gくらい?」
子どもたちのなかには頭を横にふる者がいます。
結局、子どもたちの意見によると、力を入れたり姿勢をかえるとⅠ~2㎏ぐらいの違いはあるだろう、ということになりました。
「さて、それでは実験をしましょう。保健室へ行って大きな体重計で調べてみましょう。」
こうして一同は教室を出ました。
子どもたちは、いつものようにはしゃいでふざけながらも、話題は自分たちの予想と実験のことに集中しています。
「それでは、誰にのってもらおうかな?」
先生がこういうと、
「僕がのる」「ぼく!」「ぼく!」と名乗りをあげる者が続出。結局、力が強いと定評のある太田君が実験台になるといいということに。
太田君はみんなの注目の中にまず、日本足ではかりの上に立ちました。
はかりの針は揺れています。
「はかりの針が止まってから目盛りを読むんだっけね。」
先生はそう言ってから、針が止まるのを見て、数字を読み上げました。
「41.2㎏!これでいいね。」
こうダメを押すと、今度は一本足です。
太田君ははかりの上でよろめいてなかなか針が止まりません。それでも前と同じ41.2㎏です。
アとイの人たちはあきらめの表情になりましたが、
結局、もっと一本足立ちがうまいという評判の足立君が交代してはかりにのりました。
今度は両足が35.6㎏、そして片足立ちでもやっぱり35.6㎏。
「ざまーみろ」というような顔。
「ちくしょう!」というつぶやき。
それから足立君はしゃがんでふんばります。
決戦です。
「がんばれ!」という声がかかります。

はかりの針がすうっと動いて行ったり来たりして、35.6㎏のところをわずかに行き来しました。
「わあー、勝った勝った!」という声の一方では、
「足立君、もっと力をいれろよ!」
という声がかかります。
「力を入れてるよ!」
「じゃ、僕がやります。」
こう言って太田君がまたはかりにのって、顔をまっかにしてふんばりました。
「太田、がんばれよ!」
その声援もむなしく、はかりの針は41・2㎏を超えません。
「ちくしょう!」
「へんだなあ」という声。
一方では「バンザイ」「バンザイ」
「やっぱり僕の方が正しかったろう」
「おかしいなあ」
いろいろな声で部屋はすごくにぎやかになりました。

I先生はうろたえ気味です。いくら「シーっ」と言ってもききめがありません。
それでもI先生は怒る気になりません。
子どもたちがこんなに興奮した授業はそうざらに経験できるものではないからです。

授業は正味二時間ほどかかってしまいました。
しかし、I先生にとっても、子どもたちにとっても、スリル満点な楽しい授業でした。
子どもはありったけの知恵を出しました。
自分の経験のことも、エネルギーとか原子とかどこかでききかじった知識も動員しました。
自分の空想の世界をうんとひろげて考え、議論しました。
みんなの前で自分の意見を言った者はクラスの半分ほどの者でしたが、
立って発言しなかった子どもたちも、あきらかに討論に興味をもって聞き入っていたようです。
その子どもたちも、討論の打ち切りに反対したのです。

この2時限ほどの授業が何を狙ったものだったのか、どのような効果が実際にあったのかについては、別の日記にまとめたいと思います。

次に子どもたちの感想文を紹介したいと思います。
これだけでも雑誌ができそうな大作です。

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