コロナ禍で学ぶお願いの仕方

 コロナたいへんですね。はやくおわってくれないと困ります。
 早くおわってもらうにはどうしたらいいかというと、結局は国民の皆々様方にご協力お願い申し上げるしかございません。感染症というヒトの交流そのものが悪化の原因となる災害においては、政府が何をしようと結局は国民が感染症予防対策をしない限り収まらないんですのよ。
 畏れ多くも 天皇陛下御自ら終戦の詔を出せば終わる戦いとか、そうでなくてもアベなりスガなりが真摯に謝罪して終わる戦いなんだったら、ほんとに楽だったのにねぇ……。

 そうはいっても政府だって感染症についての知識がない国民に正しく予防対策を伝える使命はあるはずです。ところが、新型コロナウイルス感染症の性質が後から明らかになってゆくというこれまたどーしょうもない災害特性のせいで、肝心のお願いの仕方がちょっとまずかったんじゃないかと思います。
 せっかくなのでこれを機に正しいお願いの仕方を学んでみましょうじゃないですか。

肯定形でお伝えする

 先に正解を書いてしまいましょう。
 ここで使う原則は肯定形でお伝えするの一言で済みます。
 たとえば航空機のキャビンアテンダントなんかが典型的ですが、非常時のお願いはすべて肯定形に徹底されています。といっても、お客様のいうことをなんでも肯定するわけじゃないです。伝える言葉が〜〜しなさいに統一されています。
 たとえば離陸前の保安上の注意ビデオを思い出しましょう。これなんか歌舞伎風で面白いですよ。
 https://youtu.be/T0Zkey8LMHU

 まぁいくつかつまみますと

・キャビンアテンダントの指示に従ってください
・着席時は常にシートベルトを着用してください
・荷物は上の棚か前の座席下に置いてください
・電子機器は機内モードにするか電源を切ってください

 という形になっております。もちろん

・機内は禁煙です。航空法で禁止されています
・荷物は通路に置かないでください
・脱出時には荷物は持たないでください(ガチギレ

 など〜〜しないでという形のお願いも含まれているのですが、
・禁煙はどうしようもない
・荷物の正しい置き場は指示されている
・マジで荷物は持つな(ガチギレ
 などとどうしょうもない場合にしか使われていません。原則としてはお願いはすべて肯定形でお伝えするようになっているのです。

 なにがよいか。単純な話で、○○しろ!というお願いは○○すればよいことが分かるというただそれだけのことです。明確性こそ第一で、そのために気をつけるのは肯定形で伝えることだけ。
 逆に☓☓するな!と言われても☓☓しないだけで▲▲はいいんですか?とかいう話になってしまうのがよろしくない。明確なお願いにするには肯定形でお伝えすることが大事なのです。

これまでのお願い

 さて、新型コロナウイルス感染症についての政府のお願いを振り返ってみましょう。
 ダイヤモンド・プリンセス号から上陸初期の時代はクラスタ潰しがメインでした。なのでどうにかしてクラスタを抑えることが第一になります。
 そうしてでてきたお願いが不要不急の外出は控えるというものでした。
 これで若い人みんな従ったんだから改めて考えるとみんな偉いよねぇ……。とは思いつつも、このようなお願いは二重によろしくないといえます。

 まず外出は控えるという否定形のお願いであること。
 更に不要不急とはなにか、が明らかでないこと。

 先に擁護しておくとこれは日本政府の特性としかいいようがなく、なんなら八十年くらい大日本帝国残滓の代わりに政府を虐待し続けてきた成果ともいえるでしょう。基本的に政府は国民になにかを命令することができません。出来るとしても立法府の判断を要します。
 政府単体でできるお願いとは消極的な文言にならざるをえず、これ以上の強いお願いはなかなか難しいでしょう。

 言い訳はともかくとして、このお願いが出された当初のみなさんは『具体的にどうすればいいかよくわからない』という心境だったかと思います。会社は?ごはんは?幼稚園は?
 その是非はともかくとして、お願いとしては致命的によくなかったのでした。ほんと、よく正しく従いましたよね、みなさん。

 それで次に出たのが三つの密を避けましょうというスローガンでした。実はこれもあまり良くない。否定形であることも然ることながら、何を否定してるのかも明らかでないのも良くなかったのではないでしょうか。
 まず三つの密とは、密集、密閉、密接でした。ところが強調したのはのほうで、実際にクラスタ事例とされた集・近・閉の三要素が後退しています。ほんとに避けるべきシチュエーションとはなんだったのか。きちんと伝わっていなかったようです。

 またもうひとつ明らかでないのは
・三つの密が重なるところが危ないのか
・密には三種類あるからすべて避けるべきなのか
の解釈が割れたところです。やはりわかりづらかった。これ、結局どっちが正解なんですかね。私は安全策ですべて避けてましたが、そういう考え方の人ばかりではないはずです。解釈が割れるお願いは正しい解釈をしない理由に使われるので、こういうフレーズを流行らすときに気をつけるポイントですね。

マスクと手洗いをしよう

 だめなお願いばかりではなかったですね。政府から繰り返しマスクと手洗いを徹底するようお願いされたのは、とてもよいお願いでした。
 アベノマスクなんて誰が考えたのか、一貫してダサいマスクをつけ続けた安倍さんのメッセージ性もよかった。
 これも肯定形でお伝えするの原則に則っています。簡素簡明ですね。マスクをする。手洗いをする。みんな守ってくれました。ありがたいことでございます。お陰様でインフルエンザの流行がなかったというお釣りまでもらえたので、ほんとうにみんな徹底して守ってたんだなと思います。

黙食と孤独のグルメ

 そのあとにでてきた会食を控えてくださいもあまりよくなかった。これは高級料亭で食事をするなという意味ではなかったんですね。残念なことに政治家やらなにやら偉そうな人が会食をするので誤ったメッセージが届いてしまいました。正しくは人と会って食事するなという意味でして、安居酒屋でも3人で飲んだら会食なのです。
 ところがこれも『会食』の定義に押し付けられて正しく伝わらないという悲劇を見ました。意外と自分の知ってる単語だからって他人も同じイメージを持ってもらえるとは限らないんですよ。一対一コミュニケーションならともかく、誰が読むかわからないフレーズの選び方はすごく慎重になります。

 これも改善の余地があったように思います。要するに喋るなってことなんで、だったらTwitterでよくいわれている黙食・孤独のグルメのほうがどうすればいいかよくわかります。黙って食べる。一人で食べる。わかりやすいですね。
 ゴローちゃんは注文時以外一切喋りません。あれは心の声ですし、勝利BGMも脳内で流れてるんですよね。一人で食べてたってあれくらい盛り上がれると楽しいですよ。

ボタンは第二関節で

 これはわたしの勤務するエレベーターに突如として現れたお願いです。エレベーターのボタンは第二関節で押してくださいとのこと。
 効果の程は知りませんがとてもいいお願いですね。何すればいいかハッキリわかるお願いはいいお願いです。単に指で押すなって書かれていたらどんな混乱をしたことでしょうか? 私なら肘で押してた気がします。そんなのやってられるか、とすぐにやめたことでしょう。ボタンは第二関節で。とてもわかりやすいです。いろんなボタンを第二関節で押すようになりました。

なにをしたらいいかを伝える

 ということで、コロナ禍に溢れた様々なお願いを見てきました。効果の程はともかくとして、わかりやすいお願いとは肯定形でお伝えするの一択であることがわかっていただけたかと思います。
 これは政府にお願い文はこう書いてほしいなどと奏上する目的の文章ではなく、人にお願いするときはみんななにをしたらいいかを伝えるようにしましょうという記事です。
 日々のやりとりで、上司から部下、先生と生徒、家族や恋仲や友達同士といろいろなお願いをすることはあるかと思います。そのときは『☓☓しないで』ではなく『○○して』とお願いするのが効果的です。
 自分で考えろといったって、あなたの考えてることは言わなきゃわかんないです。じゃああたしが考えてること、わかる?
 正解があるならお伝えするのが最速最善。してほしい〜の肯定形コミュニケーションで人間関係をスムーズに進めていきましょうね。

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