俺の心は桜乃色【ましろ色シンフォニー10周年アンソロジー参加作品】

「桜乃、俺と結婚してくれないか」

 俺は一月二十三日―そう、桜乃の誕生日にプロポーズした。正直、今まで付き合っていたのかはよくわからない。でも『付き合う』という段階は無くても良いと思っていた。

 毎日同じ屋根の下で生活をする―言うならば同棲と言っても過言ではないと思う。建前上は『家族』であり『兄妹』という関係なのは間違いない。でもそれはあくまで建前であり、桜乃との血のつながりはない。

 ならば結婚は出来るはず。桜乃が許しさえすれば。

 ふと桜乃の顔を見る。桜乃はいきなりの展開に驚きを隠せないという顔をしている。無理もない、今までこんな話をすることなんてなかったから。

「おにいちゃ……えっと……け、けっこん。」

震えたような声で桜乃が話す。でもその声には拒絶は感じられなかった。

「桜乃、話があるんだ。」

 プロポーズの数週間前、俺は桜乃をリビングに呼んだ。『あること』を話すために。

 そのあることというのは、桜乃と俺が本当の兄妹ではないということ。きっと桜乃は知らないと思っていた。しかし、それを打ち明けた時の返事は予想をしてない回答だった。

「私、お兄ちゃんと血がつながってないの知ってる。お兄ちゃんも知ってたの?」

 正直、桜乃が小さいころのことだったため、全く知らないのだと思っていた。でも桜乃はずっと知っていたのだった。俺と桜乃が他人同士だということを。

 桜乃にこんな話をしたのもプロポーズの前準備だった。もし知らない状態でプロポーズをしたら、『実の妹に結婚を申し込む兄』というレッテルを貼られかねないからだ。

しかし、桜乃はそれを知っていた。今までもずっと。お互いに相手は知らないと思って今まで一緒に過ごしてきたのだった。

 その一つ目の『告白』から数週間後の桜乃の誕生日、誕生日プレゼントを選びに行くという口実で桜乃を連れ出していた。

 本当の目的は桜乃へのプロポーズのため。桜乃が前から欲しがっていた物をプレゼントして、帰り道にあるいつもの公園で桜乃にプロポーズをした。

「よろしくおねがいします。今までも、そしてこれからもずっと」

 桜乃は若干涙を浮かべながら小さな声でそう言った。俺は桜乃をぎゅっと抱きしめた。

「お兄ちゃん苦しい」

 感情が高ぶってつい抱きしめすぎたみたい。手を離すと桜乃が家と逆方向に歩きだした。家は逆だぞと言おうとするのを遮るように桜乃が話してきた。

「今日はお祝いだからお赤飯炊く。足りないもののお買い物」

 どうやらスーパーに戻って追加で買い物をするらしい。そんな桜乃の後ろ姿は嬉しそうに見えた。

 スーパーで赤飯の素とかあれこれ買い込んでの帰り道、(これ食べきれるのかな……)なんて思いながら歩いているとふと桜乃がこんなことを言ってきた。

「て、繋ぐ?」

 桜乃が手を差し出してきた。普段なら何も気にせず握り返してしまうが、なんかお互いに恥ずかしそうな表情。何を緊張しているんだ俺。

「手を繋ぐの嫌?」

 いえいえそんなことはありませんよ。むしろ今すぐにでも手を繋ぎたいけども何だか手が伸びない。何だろうかこの気持ちは。

「むぅ……」

 桜乃が少ししょんぼりしたような声で手を戻そうとする。俺は思いきって桜乃と手を繋いだ。途端に赤くなる桜乃。自分から繋ごうと言ってきたんじゃないか。

 その日の夕飯はクリスマスがもう一度やってきたみたいにやけに豪華な夕飯になっていた。赤飯にローストチキン、デザートにはケーキまで出てきた。お腹も心もお腹いっぱいになったような気がした。

「ちょっとおでかけ。愛理のとこ」

 翌朝、桜乃が愛理の所に行くというので送り出したあと、ふと考えてみた。

 桜乃にプロポーズして承諾を貰った。でもだからといって何か変わるのだろうか。お互いに意識すれば変わっていくのだろうか。変わることに期待をしつつ、今が変わってほしくないという複雑な気持ちが頭のなかを漂っていた。

「け、け、け、け、けっこおおんんん!?!?!?」

 愛理の家に行ってお兄ちゃんからプロポーズされたことを話したら物凄い驚かれてしまった。無理もないよね……。

「さくの!? 瓜生くんとは兄妹でしょ!? なのに結婚だなんて!?」

 そっか、愛理は知らないからね。私とお兄ちゃんは兄妹であって兄妹ではないってこと。そこから説明しないと。

「親が違うから……結婚は出来るってそれはわかったけど! で、桜乃はなんて答えたのよ」

 私は……お兄ちゃんと一緒になれるならと思って。誰かの物になっちゃうのは嫌だ。

「そう……。二人が良いならもう何も言わないわ。それでそれを伝えに来たわけ?」

 それもあるけど、結婚するのに『兄さん』のままで良いのかなって。名前で呼びたいけど恥ずかしくてそれで相談したいと思って。

「確かに結婚するのに兄さんはおかしいわね。しんごなんて呼ぶの簡単よ。し・ん・ご。ほらね」

 愛理は呼んだことあるから簡単だろうけど、私はずっと『兄』として呼んでいたから踏ん切りがつかない。

「なに赤くなってるの!ほら『し』と『ん』と『ご』って言うだけでしょ」

 し……ん……しん……しん……なんて言っていたら愛理にダメだこりゃみたいな表情をされてしまった。『お兄ちゃん』ならすぐに言えるのに。

「そしたら兄さんにするのは?『しんご兄さん』これなら言えるんじゃない?そして『兄さん』を段々無くしていくのよ」

 流石愛理名案。それなら私にも言えそう。『しんご兄さん』うん言えた。これなら大丈夫。

 その後愛理と一緒にご飯の食材を買いに行ってきた。時々こうやって一緒にお買い物しつつ献立の相談をしている。

「ねえ桜乃、どっちからプロポーズしたの?」

 ふと愛理がこんなことを聞いてきた。そこでにい……と言おうとして愛理が指を横に振る。あっ名前で、ね。「しんご兄さんから」

「へぇー意外と勇気あるのね瓜生くんって。」

感心感心みたいに首を縦に振る愛理。でもなんか寂しそうにも見えたのは気のせいだったのかな……。愛理の表情の中には若干の悲しさのようなものが見えた。

 お昼はハンバーグを作るってことに。たまには手作りハンバーグも悪くないし、お兄ちゃんも好きだと思う。

途中で愛理と別れて家路を急ぐ。早くしないとお昼に間に合わなくなっちゃう。

 帰り道の途中、前にこの辺で迷子になってお兄ちゃんに迎えに来てもらったなとか思い出しつつ歩いていた。

「ただいま」

 桜乃が帰ってきたようだ。テーブルに並べられたひき肉に玉ねぎを見る限りお昼はハンバーグらしい。そしてキッチンから桜乃が手招きしてる。手伝ってってことらしい。

「お兄ちゃんお肉こねて。わたしは付け合わせ作るから」

 でも料理を手伝ってなんて珍しい。いつも桜乃が作るなら全部一人で作っているし。

「ふたりのはじめての共同作業?」

 (そういうことか……)って初めての共同作業がハンバーグ作りで良いのかなと若干考えながらも桜乃と一緒にご飯を作るのを楽しんでいる自分がいた。

 お肉をこねると言っても、意外ときれいな楕円形を作るというのも難しい。試行錯誤してはみたものの歪な形になってしまった。

「お粗末さまでした」

 二人で作ったハンバーグを食べ終えてくつろぎタイム……なのだけどもお互い中々言葉が出てこない。

 いつもなら色々な話をしてる気がするけども、変に意識してしまって黙り込んでしまっている。

 そんな中、桜乃が片付けのためにキッチンの方に向かっていった。一人でやらせるわけにもいかないので自分もキッチンへ向かう。二人で片付けを進めていきつつ、ふと桜乃の顔を見たら気持ち赤くなっているような気がするのに気がついた。

「お兄ちゃん顔なんか赤い。お熱?」

 俺も赤くなってしまっていたらしい。ふと笑みがこぼれた。桜乃の顔もちょっと赤いよと伝えるとさらに赤くなってしまった。どうやら原因は同じらしいな。

「そういえば、どうすれば結婚できるの? 結婚式すればいいのかな」

桜乃に唐突にそんなことを言われて、一瞬ハッとした。取り敢えず桜乃にプロポーズすることだけを考えていて、その後のことはあまり考えられてなかった。

(結婚式かぁ……)そんなことを考えていたらうとうと寝てしまった。

「お兄ちゃん起きて。朝だよ起きないと遅れちゃうよ」

 桜乃に起こされてハッと起きる。桜乃にプロポーズした日の夢を見ていたらしい。桜乃からは未だに『お兄ちゃん』と呼ばれてしまうけども。

 今日は桜乃との結婚式。今日からまた二人の思い出をさらに作っていきたいと思う。いや、作らなくちゃダメなんだ。そんなことを考えながら家の玄関を開けた。

「今日は俺と桜乃の結婚式―二人が結ばれる日」


もずくにんさん主催のましろ色シンフォニーの10周年に参加させていただいた小説です。新吾を自身に重ね合わせてニヤニヤしながら書いていたのを思い出します。このタイミングで公開したのには理由があって、ましろ色シンフォニーのFHD版&SANA Editionの発売記念のアンソロジーに続きという感じで参加させていただいたんです。

前回のを購入された人なら経緯がわかってても、それだけみたらいきなり結婚してる!?になりかねないので事前に公開しました。絵を描け?ご、ごめんなさい!!

C102のましろ色シンフォニーのアンソロジーに関しては、もずくにんさんのアカウントを見ていただければと思います。
https://twitter.com/mozuku0226

※全文公開のためご購入いただいても追加コンテンツはありません。読んでいいなと思ってくれた人が居たら……。

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