「鴨南蛮」

WEDNESDAY PRESS 054

「おとなの週末」(講談社刊)という雑誌で、タベアルキストのマッキー牧元さんと、同じ料理を東西で競い合う連載を数年続けている。交互にテーマを出し合う。直近のテーマは「鴨南蛮」であった。僕は河内鴨を使った「藤乃」という蕎麦屋のそれを取材した。上質な鴨の脂が出汁に溶け、コクと風味が生まれる逸品である。

交互にテーマを出すのだが、苦労をすることもある。以前マッキーさんは「白ご飯」を選んだ。これはなかなかハードルが高い。コースの割烹の最後に供される白ご飯では成立しない。白ご飯単体で食べられることが条件。反対は「鯖寿司」であった。関西ではいたるところに鯖寿司は点在するが、東京はそうはいかなかったようだ。テーマの設定もまた楽しみの一つ。

「鴨南蛮」。つい先日、京都の「ろうじな」という蕎麦屋に入った。カウンターに腰を下ろし、さて何を食べようかと献立を眺めていると「冷やし鴨なんばん」という文字は目に飛び込んできた。なに!「冷やし」の鴨なんばん。俄然興味が湧き、迷うことなくそれを注文した。

カウンターに届いた。
ビジュアルが美しい。
鉢の左側に鴨肉は規則正しく3枚ずつ、計6枚並ぶ。
右側には酢橘が3枚並ぶ。
出汁は透明感があり、側がその中にいる。
鴨特有の脂が出汁に浮いていない。
まず鴨を食べる。すっきりとしており、歯がすっと入る。
出汁を飲む。冷たいが味わいは深みあり。
蕎麦を口に運ぶ。その出汁をまとい、冷たいのであまり延びることなく、歯ごたえを感じる。
酢橘の酸味もいい感じにきいている。
これは一つの世界観が成立していると思った。

取材をした「鴨南蛮」とは印象が違うが、この「冷やし鴨なんばん」は冷たい麺の定番となった。

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