20230207

すきなものについて書くnoteです。
書きたいことはいろいろあるけれど、テーマに対して心地よい文体がそれぞれ違っていて、持て余しているというか、書きあぐねています。書きたい気持ちだけがある。ついてゆけ、からだ！

さて今回は、デザインについて書いてみようとおもいます。正確には舞台照明デザインについて。わたしはどうやらわたしが思っていたよりずっと、ちゃんと照明のしごとをすきなようなので。

⚠︎しばらく身の上話が続きます。わたしのデザインはわたしの人生ぜんぶが素材になっているとおもうから。伝えたいので、聞いてくれるとうれしいです。

照明のデザインに出会う前に、美術との出会いがあった。地元の小学校で馴染もうとせず、世界のすべてを舐めきっていたわたしを危惧した当時の担任の一言で中学受験、4種あるコースから消去法で美術を選び、天狗のごとく伸びきった鼻を折ってもらうつもりがなぜか合格してしまい、わたしは中学3年間、普通の人より少しだけ多い時間、美術と関わることになった。結果、おそらく受験に失敗するよりもはるかに効果的に自尊心を砕かれることに成功した。言葉で乱暴に固定してしまうと、この3年間はわたしにとって、それなりの苦痛をもたらすものだった。
それまでのわたしにとって学校の課題は、歩くことと同じだった。できるようになろうとするより前にすでにできていて、右足を出して左足を出せば前に進む、そのまま続ければそこへ着く。歩くことは手段だから、行きたい場所なんてなかったから、なんで歩く必要があるのか、だれも教えてくれなかったから。生活とは、そういう類のつまらなさだった。

絵を描くことは、わたしには、歩くことになってくれなかった。右足を持ち上げて、地面から離したまますこし前方に伸ばし、そのまま下に下ろす。顔を上げると90度右に向いている。次こそまっすぐ、左足を上げ、前に伸ばし、下ろす。さらに60度右を向いている。そういう具合。原因はわかりきってる。歩くことも絵を描くことも、人間のやることはぜんぶ訓練の成果だ。かけた時間の分だけ身体に馴染む。ただそれに必要な時間というのは人それぞれに違っていて、それが適性というものだ。わたしは、絵を描くことを、わたしの身体に馴染むまで続けることができなかった。思うとおりに身体が動かないことに耐えられなかった。
それだけなら別によかった。絵を描けなくても生きていける、いつでも辞めたらいい。けれどこの場所において、絵を描くことは乗車券だった。ここにいるための必要条件。さっき3年間を苦痛だったと言ったけれど、苦痛だったのは「できない自分」を突きつけられ続けたこと。この場所のこと、ここで出会った人たちのことはだいすきで、ここでなら息ができるとおもった、わたしがゆるせるわたしになるために、ここから離れるわけにはいかなかった。だから、苦しかった。

ただひとつだけ、これだけ苦しかった3年が、まるごとぜんぶ報われる学びがあった。
それは、「うつくしさ」には正解はないが、「わたしがうつくしいと思った」ことには理由があるということ。
うつくしいものをみたとき、わたしにうつくしいと思わせたものは何なのか考えるくせ・・を、このときに身につけたのだとおもう。
絵を描くことは諦めてしまったわたしだけど、考えることは1秒だって止めたことはなかった。
いや正確には、わたしの意思で止められるものじゃなかった。わたしは、わたし自身すら置き去って進む思考がすべてをなぎはらってゆくのをただ見ているしかなかった。たくさんのひとを傷つけ、遠ざけ、諦めさせた。わたし自身も満身創痍だった。
美術を鑑賞することが、この暴走機関にしかるべき方向をくれた。美術はよかった、わたしよりはるかにつよくて大きくて、それなのにひとことも喋ったりしないから。鑑賞者たるわたしが感じたことは作者の意図に関わらず、たしかに事実として存在し、過不足なくその分だけ正しかった。もちろんその正しさが他者と完全に共有されることはなかったが、それさえも救いだった。他者を侵害しないかぎり、どんな感想も解釈も存在して良い。わたしの正しさだって間違いではないと、はじめて言ってくれたのが美術だった。

これが、いまのわたしの最初の挫折と、いまのわたしの最初の肯定の記憶です。間違ってないと言ってもらえて、わたしはようやくわたしのことを、卑屈ではなくもっと透き通ったきもちで認めることができた。

書き始めてから二月も経ってしまった。
まだ舞台照明に出会っていませんが、力尽きてしまいました。今回はここまでにします。