見出し画像

【意外と普通のBLゲー】学園ハンサム Special 感想・レビュー

前書き

ギャグ作品に対する、辛辣なレビューを見るのが好きだ。
と言っても、「つまらない」「センスがない」等の単なる暴言じゃない。
「ギャグは面白いが、いくら何でもシナリオの流れが雑すぎる」とか、
「システムが不便なせいでギャグをテンポよく楽しめない」とか、
ギャグ以外の部分の粗まで一つ一つ冷静に指摘するような内容だ。
そこには、「本気」で作品と向き合った奴の、真剣な思いがある

ギャグなんだから、細かいこと気にするなよ
ギャグ作品に対する否定的な感想は、そんな言葉で誤魔化されがちだ。
だが、本気で作品を楽しもうとすればするほど、同じく粗も目に付くものだと思う。
それでも「冗談が通じない」「粗探しで笑いに水を差す奴」なんて言われるのが嫌で、隠せない不満も呑み込むしかない。
そんな時、決して大きくはないが確実なモヤついた気持ちが、自分の中に鬱積していくものだ。

だからこそ、ギャグとしての面白さとは別に、作品としての粗に対しては誤魔化さずに不満を指摘するレビューが好きだ。
真剣に笑い、真剣に怒る。そんな誰かの本気の思いを感じるときが、俺は何よりも愉しいんだ。

時代を感じるネタ

……と、こんな書き出しから始めているので本作についてボロクソに書くつもりなのかと思われそうだが、結論から言うとそうではない。大雑把に言って、本来のターゲット層と思われるBLゲーのプレイヤー、いわゆる腐女子層へのバカゲー・ネタゲーとしてなら、十分にお勧めできる内容だと思った。一方で、ニコニコ動画でOP動画を見て笑っただけの、普段はBLゲーに一切触れない・興味もない男性が純粋なギャグのみを期待して購入するのは正直オススメできない。なぜかと言うと、本作の根幹は意外にも結構真っ当なBLゲーで、最初から最後まで延々ハチャメチャに包まれたギャグではないからだ。

ギャグで笑うだけのとことん馬鹿なゲームだと思っていたのに、いつの間にか結構本気で「学園ハンサム」の世界観やキャラクターに惹き込まれ、虜になるか。
それとも、「ギャグを見慣れたら、ただの絵も声も下手なクソゲーでしかなかった」と失望するか。そう評価が分かれそうな作品だ。
それが、この学園ハンサムシリーズの総集編「学園ハンサム Special」の収録作品全てを真剣にプレイした上での感想だ。
その詳細を、これから書いてゆく。

今回は、少なくともクソゲーではないと思ったので重大なネタバレは基本的に伏せている。また、可能な限り注釈は加えて書くので、未プレイの人も問題なく読めるはずだ。

価格の壁

公式サイトの記載とDMMの実売価格は微妙に違う

まず俺が本作のプレイを決意した理由だが、価格が高かったからだ。
このゲームは小生意気なことに、こんなあからさまなネタゲーでありながら現在DMMで2618円で販売されている。
本作に収録されているうち、「in Paris」以外の5作品はスマートフォン用に個別販売もされているので、とりあえず1作品だけ触るならもっと安く済ませることもできる……が、もしも最終的に全作品遊びたくなった場合は結局「in Paris」のために「Special」を購入する羽目になるため、スマートフォン版から入るのは諸刃の剣だ。

とは言え、約2600円と言うのは同人ゲームとしてはかなりの高価格帯だ。
その価格帯なら、美麗な絵と本職の声優が付いたゲームすら珍しくない。
ネタのために2618円をポンと出すのも結構な勇気が必要だろう。ここで尻込みして結局遊ばなかった人も多いはずだ。
だから俺がやることにした。

「学園ハンサム」の面白さとは何か

とりあえず学園ハンサムという作品について、その名前と「顎が異様に長くて尖っている」「声が素人」くらいは知っている人も多いことだろう。
だがビジュアル面については「大体見た通りだ」としか言いようがないし、既に散々語り尽くされていると思うので本記事ではあまり言及しない。
と言うか、そうした点で笑いたいだけであればOP動画だけ見れば十分だ

ならば、ゲームとしての「学園ハンサム」シリーズの面白さとは何か。
それが先述した「結構真っ当なBLゲー」である点だ。

ゴミ

本作は勿論バカゲーだし、露骨なネタ選択肢も多数存在する。
じゃあプレイヤーも好き勝手にふざけていればいいのかと言うと、そうではない。
本作は意外としっかりキャラクターの好感度やフラグが管理されており、好感度が不足していたり重要な選択肢でハズレを選ぶとグッドエンドには到達できなくなっている。
上の画像では誕生日プレゼントにゴミを選択できる場面だが、これを選ぶと普通に嫌がられて終わる

お前が言うなと思ったら負け

キャラクターの人物像も案外ちゃんと作られていて、例えば本作の看板キャラクターとも言える美剣咲夜の場合、彼は散々ふざけた言動を行ってくるが、プレイヤー側の選択(返答)としては「真面目な冷めた対応」が正解だ。
どうせバカゲーだからとノリノリでふざけた選択肢を選ぶと、逆に冷めた態度で「は?死ね」と言われて終わる

一方で、別のキャラクター西園寺輝彦の場合はひたすらふざけるのが正解で、変に真面目な対応をするのは絶対にNGだ。何を言われても「うんこ!」などと正気を失った返答を繰り返す必要がある。
それ以外にも、キャラクターごとに好みの傾向・正解のパターン等はゲーム中で各人物の言動をしっかり見ていれば何となく察しが付くようになっており、それを理解すると普通にキャラクターたちを「攻略」する恋愛ゲーとしての達成感を得ることができる。

彼は大真面目だ

攻略キャラクターの一人、志賀慎吾への誕生日プレゼント候補は「フルーツの盛り合わせ」「炊飯器」「安眠枕」と何だかよく分からないチョイスの三択だが、正解は安眠枕だ。
これも初見では何が正解なのか分かりにくいが、彼が夢の中で主人公に何度も語りかけてきていたことを覚えていれば、夢→眠りに関わるもの、と論理的に答えに辿り着けるようになっている。これに気付いたときは本気でハッとさせられる気分だった。

また、彼は中二病みたいな発言を繰り返しているが本人は大真面目なので、彼のファンタジックな発言を否定するような返答はNGとなっている。単なるバカゲーと思っているとフラグを非常に折りやすいので注意が必要だ。
元々、彼は好きな映画を聞かれたのに「ゲ◯戦記ってクソだよな」と返答するような中々リアルなコミュ障感のある人物なので、繊細に扱ってやろう。

カモメと戯れる

そうした「ちゃんとキャラクターが作られている」事こそが、学園ハンサムという作品が完全な一発屋で終わらず、後に4作も外伝が続き、その後に総集編まで発売されるほど愛されるコンテンツとなった理由なのだろう。
俺は本作をプレイして、そう感じた。

このシーン、学園ハンサムの分際で意外と良いな」と思わされることも何度かあった。
上の画像は志賀慎吾とのデートイベントで、絵柄は相変わらずだが構図などの見せ方はかなりまともだ。本作ではギャグ演出の一環(たぶん)として急に絵のクオリティが上がる場面もあるが、それ以外にも「それっぽい」場面は案外しっかり存在する。

しっかりキャラクターの掘り下げとして機能している

正月には好感度の高いキャラクターから年賀状が届くイベントが存在するんだが、これにも人物ごとの個性が出ている。
鏡蓮児は「うんこ」ネタの多いキャラクターだが、年賀状の内容は至って真面目で、彼がちゃんと学年1位の成績を誇る生徒会長というインテリ系の人物であることを思い出させてくれる。
また、早乙女拓也の年賀状はいかにも学生が友人に送る年賀状のノリが上手く表現されていて、幼馴染キャラとしての「親しみ」が感じられる。

それから、ネタバレになるのであまり詳しくは語れないが、拓也ルートのエンディングは「バカだなあ」と「でもオチの展開自体は王道で良いな」と感じる心が混在していて不思議な気分だった。

総じて、真面目に作られたバカゲーだからこその味わいが「学園ハンサム」には確かに存在する。その点は本当に好感を抱ける作品だった。

ゲームとしては荒削りすぎる

校長

良い点を述べつつも万人にオススメはできないと思ったのが、主に根本的なゲームとしての不自由さだ。その象徴とも言えるのがセーブ周りだろう。

本作では学園の校長が「セーブ係」となっており、校長室に行くことでセーブが可能となっている。中盤からは妹もセーブ係に加わるが、とにかくセーブ可能なタイミングが限られているのは変わらない。
ここでセーブするか?」とシステム的な台詞を喋る校長は、たしかに初見時こそ結構なインパクトがあるが、実際ゲーム全体を通して付き合っていくと、いずれギャグとしては慣れて不自由さだけが残る

最も気になるのは、放課後などの決まったタイミングで毎回「校長室に行くか否か」の選択肢が出ることだ。セーブの必要がないタイミングでは純粋に邪魔でしかない。周回時にスキップを多用して進めていると、この選択肢でいちいちメッセージを停止させられるのは結構本気で鬱陶しい。

また、実際にセーブを行う場合は「校長室へ行く」を選んで校長室へ移動、それから改めて校長に「ここでセーブするか?」と確認される二度手間で、これが地味にテンポが悪い。
さらに言えばセーブ画面もページを切り替える度に1.5秒ほど待たされるので、セーブスロットを確認するのも微妙に面倒だったりする。
一つ一つは小さな問題だが、積み重なると結構な不満点になる部分だ。

これはRevolutionで校長役になった妹

そして、先述した通り本作では選択肢でしっかりと正解を選ばないとグッドエンドには到達できない
その意外とシビアな仕様なのに、セーブできるタイミングが限られているのは純粋に不便だ。もちろん選択肢を決定する直前のセーブもできない。
ついでに言うなら、

  • ホイールでのメッセージ送り非対応。クリックかEnterキーのみ

  • 選択肢の表示中にはバックログの閲覧も不可

  • 台詞1個単位で遡ることしかできず、抜けるには遡った台詞から元の位置まで戻る必要があるバックログ

  • 一度動いたら全然止まってくれないメッセージスキップ

等々、本作の根本的な仕様周りには原作の初回発売時、2010年基準でも古臭すぎて不便な仕様が多々ある
こうした、そもそもの快適性の低さは明確な問題点だし、総集編としての発売時に多少なりとも改善してほしかった点だ。

再三指摘しているが、本作の選択肢による分岐は意外にシビアだ。
特に「Revolution」「Restaurant」辺りは一体どの選択肢が原因でバッドエンドになったのか全く分からないことが多々あり、こうなると最初からやり直した上で全ての選択肢のパターンを総当りするしかない
この作業は本気で面倒だったし、これが理由で途中でプレイをやめた人も結構いるんじゃないかと思う。
バッドエンドなりにおバカな分岐がしっかり存在するパターンはまだマシな方で、大抵は一定の期日に到達した時点で「お前みんなに嫌われてるぜ」と言われてブツ切りでゲームが終わるだけだ。

いわゆるメタフィクション要素はいくつも盛り込まれているゲームなんだし、失敗した場合は校長や妹が「この場面でこう言ったのが悪かった」と教えてくれるとか、あるいはもう選択肢を選ぼうとした時点で「それを選ぶのか!?フラグが折れるぞ!」と割り込んでくるとか、そんな感じの救済措置は欲しかったところだ。

総じてゲームとしては悪い意味での荒削りさが目立つ部分も多く、楽しむよりも機械的にルートを回収させられることも多かった。
これは本当に勿体ない部分だ。

外伝作品は少々ボリューム不足も

美剣先輩(先生)と写真が撮れるのはRevolutionだけ!

本作「学園ハンサム Special」は、学園ハンサムシリーズ6作品を収録した総集編だ。
普通に恋愛ゲーのツボを抑えた内容から、ぶっ飛んだ設定のパラレル物まで、それぞれのコンセプトはどれを見てもしっかりと面白い。

個人的には、学年が違うせいで攻略対象キャラの中で唯一遠足の記念写真を一緒に撮れなかった美剣咲夜が、Revolutionでは「先生」という設定で同行しているので一緒に記念撮影ができる点は、パラレル世界のハチャメチャさを出しつつ上手くファンの要望を叶えていると思った。

ただ、ボリュームの面では不満を感じる部分もあり、特に目立つのが「Chocolate」の内容の薄さだ。
本作はほぼ全体が共通ルートで、キャラ個別の分岐は最終的にチョコを渡したあとの短いエピローグくらいしかない。
初回プレイで30分前後、そこから周回して全キャラのエピローグを回収するとしても、1時間あればほぼコンプできてしまう。
美剣先輩ルートのオチはちょっとキュンとしたが、それでもこれが他の外伝と同じく360円で単体販売されているのは少々高すぎると感じる。

コンプまで20分

そして、新規収録の「in Paris」は更に薄く、ほぼルート分岐も無しでコンプまで20分程度の内容だ。
確かに公式にも「ショートストーリー」とは書かれているが、過去作を全部買っていたファンからすれば当然これ一作のために「Special」ごと購入するしかないわけで、「in Paris」の内容に期待して購入したファンがいたら結構本気で怒られても仕方がないと思う。
こういう商法自体はそんなに珍しいものではないと思うが、過去作からずっと付き合っていたファンこそ一番損をするやり方には首を傾げたくなる。

人は選ぶが悪い作品ではない

クリームだけ雑に描き足してあるのが味わい深い

そんなわけで、システムや価格設定には明確な不満点もあったが、見た目通りのおバカさを持ちつつもBLゲーとしては意外なほどにしっかり作られた作品、というのが俺の感想だ。

中には水着を着た股間が露骨に膨らんでいる描写、乳首の部分だけ切り取られた服など人によっては結構本気で気持ち悪いと思いそうなネタもあるほか、実在する芸能人をネタにした内容などもあり、これに苦言を呈している感想なども見かけた。

そうした点もあって万人に勧められるとは言い難いが、興味のある人にとっては2618円を払って遊ぶ価値も十分ある。そう思った。
まあ2024年にもなって(今日なった)今更学園ハンサムに興味を持ち、なおかつ俺の記事を読んで購入を考える奴がいるとは思わないが。
ともかく、本作の感想は以上で全てだ。


なお、俺が本作をプレイした際の様子はこちらで配信している。
細かいルート回収などは配信上では流していないが、興味の湧いた奴は見ていってくれ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?