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樹海警察 大倉崇裕著 ハルキ文庫(2017年10月発行)

山梨県警上吉田署には樹海で見つかった遺体専門の部署があるらしく本書はそこでの事件を3件収めたミステリーです。

もちろんフィクションですが。

この部署は他から蔑まれるような部署で特に刑事課の牛島課長からは目の敵のようにされています。

本作の主人公はそんな部署に「何も知らされず」に配属されたエリート警察官「柿崎努警部補」。配属先の部署にはそれぞれに過去を引きずっている型破りな部下が3名いて、本書の3件はそれぞれの過去に関連する事件が扱われています。

この柿崎警部補が特権階級意識はないものの、警察官としてのルール・規範にとても厳しい人で、型破りな部下に対して強い問題意識を持つと同時に、自分たちの意見をまったく聞こうとしない刑事課長に対しても堂々とやりあいます。

本作の面白さで言えば、この柿崎警部補の動き方に集約されるでしょうか。堅物でルールに厳格な上司と事件解決能力は高いものの型破りな部下という組み合わせと聞けば、「部下の能力を認めた上司が、いつしかその部下のやり方に染められて柔軟な人物になっていく」ストーリーを思い浮かべるかもしれませんが、そんなことはまったくなく、柿崎警部補の性格は一貫して変化がありません、

一方で刑事課長も完全な悪役として描かれているため、正義の塊のような柿崎警部補と警察の暗部を代表するような刑事課長との対決が爽快感を醸し出しています。

いつしかそんな上司を型破りな部下たちが信頼するようになり、柿崎警部補も部下たちが抱えている暗い過去を知るにあたって、いくぶん優柔な態度をとるようになっていきます。そこがなんか、面白い。

思えばこの作家の警察小説は「見下される部署」の登場する作品ばかり読んでいる気がします。警視庁いきもの係とか死神さんとか。大好きな福家警部補は変人ながらも一目置かれているので、見下されているわけではないですけどね。

で、収録されている事件ですが、どれもこれも悲しい事件が多いです。ただ、「やりきれない」というほどではないですし、確実な悪意が存在する事件ばかりなので、解決後の読後感は良いほうだと思います。

収録されている最後の事件で全体を通して貫かれていた謎の一つが解決してしまうので、続巻はなさそうな気もしますが、もう少し彼らの活躍をみてみたいと思わせる良作でした。

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それにしてもカバーイラストが癖になりそうなぐらいダサいですね。

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