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ドッペルゲンガーの銃 倉知淳著 文春文庫(2021年10月発行)

3編の中編ミステリと短い後日談の計4編が含まれた連作ミステリです。推理役は女子高生ミステリ作家(の卵)の水折灯里。ほかに兄で刑事の大介。灯里の担当編集者である佐田山が登場します。そして灯里の推理にダメ出しをする謎のご先祖様が出てきます。

読後の印象を一言で表すと、「ふざけた外観のいれものに正統派の推理小説がつまった逸品」というところでしょうか。

灯里は投稿した小説で賞を獲得し受賞後第一作のネタにこまっている状態。兄の大介は超エリートで現場経験のために所轄に派遣されているものの、おっとりとした性格で何の役にも立たず、周りから持て余し気味にされている状態。そんな兄からネタになりそうな事件のネタをせがんでは、現場に赴き関係者から根掘り葉掘り情報を引き出す灯里。進行中の事件なので担当警部から邪魔にされるかと思いきや、兄がキャリアであること、この二人の父親が警視監という雲の上の存在であることから、兄が(ついでに妹も)事件現場に立ち入ることを黙認している状態です。

このあたりを基本設定として物語が進んでいきます。事件は3つ

文豪の蔵:
   密室状態の蔵で発見された死体の謎

ドッペルゲンガーの銃:
   25km離れた現場でほぼ同時刻に発射された拳銃の謎

翼の生えた殺意:
   
第一発見者である車椅子の男性のタイヤ痕以外に雪の降り積もる日に
   殺害現場の周りに何の痕跡も残されていなかった謎

どの事件に対しても、関係者に対して兄の大介が面会をもとめ、妹の灯里が様々な質問をして現場を確認し、推理を披露するという実にオーソドックスな展開を見せます。昔ながらのシリーズ探偵による推理小説の短編集にありそうな話です(トリックや犯人はそれぞれに目新しさはありますが)。

推理役は灯里ですが、あまりにも的外れな推理に業を煮やしたご先祖様が登場し、正しい推理を披露して事件解決となります。3編とも同じ流れです。

そのあたりがくどいかな、と思いました。お約束の面白さというものもあるのでしょうが、事件が「しっかり推理小説」しているだけにかえって邪魔に感じましたね。最近はやりの「特殊属性や能力を持つ推理役が主人公のミステリー」にはない面白さがありますので、お勧めできる作品だとは思いますが、個人的には物足りなさを感じました。

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