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虚構推理短編集 岩永琴子の出現 城平京著 講談社タイガ(2018年12月発行)

虚構推理シリーズの短編集です。発表された順で言えば第2弾なのですが、シリーズ第1作が講談社文庫から講談社タイガに移ってきた経緯があるので(タイガとしては)こちらの方が先に出版されたことになります。

収録されているのは全五話。登場人物の紹介もそこそこに事件が始まります。

【ヌシの大蛇は聞いていた】山奥の沼に死体を捨てに来た女性。それは人間社会ではすでに警察で処理済みなのだが、沼の主とされる大蛇には納得のいかないことがあり、その解決を岩永が依頼される。事件関係者からは話が聞けない状況の中、岩永は大蛇が納得できるような推理を披露できるのだろうか。

なるほどね。事件を目撃したちょっと賢い物の怪が納得するための「虚構推理」を披露するという手がありましたか。それなら「虚構」の必然性が出ますね。

【うなぎ屋の幸運日】事件で半年前に妻を亡くした男性が、旧友を誘ってうなぎ屋で食事をしている。別のテーブルにはなぜか岩永が一人座ってうなぎを上品に食べている。この男性たちは老舗のうなぎ屋と岩永とのミスマッチが気になって仕方がないのだが、話題は死んだ妻の話題となり、誘われた男性が夫である目の前の男性を犯人だと指摘する。その推理は間違いだと弁明し旧友も誤解を詫びて分かれるのだが、店を出たところで妻を亡くした男性が岩永に呼び止められ、意外な話を聞くことになる。

この話は岩永がいい仕事をするんですが、「虚構」の使い方が少し違っていました。最初は楽しく、途中で不穏に、最後は怖いと展開が変わる面白い話です。

【電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを】岩永は妖怪たちの依頼で海辺の町に出没する人形を退治することとなった。この人形は山奥と海岸を往復するだけなのだが、海に入って電撃を発し、魚たちを死なせてしまうらしい。その余波が物の怪たちにもおよび身の危険が迫っていることから依頼が来た。物語は人形とその制作者の目的、人形の退治方法を探る形で進められていく。久しぶりに九郎が大活躍する話である。

あまり「虚構推理」ではないのですが、登場人物みんながなんらかの嘘をついています。少し物悲しい話なのですが、ただ岩永の恋人である九郎の本音が聞ける話でもあります。岩永に付きまとわれるのを嫌がりながらもなぜ恋人として居続けるのか。九郎の覚悟はどこにあるのか。「なるほどねぇ」というのが読後の一番の感想でした。

【ギロチン三四郎】これは付喪神となったギロチンが名乗っている名前に由来するタイトル。このギロチンの持ち主である宮井川甲次郎が弟を殺してしまい、その後にギロチンで死体を切断する。その状況に疑問を感じた三四郎が岩永に解決を依頼してくるのだが、そこには幼いころから宮井川に懐き、現在ではイラストレーターである小夜子の存在が大きくかかわっていた。

結構普通の推理ものに近いですね。ただちょっとしたアクシデントで岩永が始めるはずの推理ショーを九郎が始めてしまったり、さらなるアクシデントで九郎が崖から落ちてしばらくのあいだ死んでしまったり、と単なる推理ショーには終わりません。

【幻の自販機】レトロ自販機を改造して物の怪が物の怪に食事を提供するドライブインがある。そこには本来人間は入れないのだがふとしたはずみで入り込むこともあるようだ。ただ、そのドライブインでは時間も空間も通常とは違う流れ方をしており、通常は数時間かかる距離を一時間程度で移動してしまうこともできるらしい。殺人を犯した本間は検挙後も罪を認めていたのだが、殺人後の移動途中でこのドライブインに入り込んでしまい、不可思議な状況が発生してしまう。本人も罪を認めているため、通常ならば「勘違い」で済まされてしまうのだが、刑事の一人がそれに納得せず、冤罪なのかもしれないとこのドライブインについて執拗に調査を進めていた。その調査がついに物の怪たちにも影響を与え始めており、岩永はこの刑事を納得させられる「虚構推理」を構築するよう求められるのだった。

やっと「虚構推理」です。頑固そうな刑事を物の怪の存在を隠しながら納得させられるのかが読みどころです。なかなかトリッキーな論理を構築していきます。もちろん「虚構(うそ)」なので調べればすぐにばれてしまうのですが、もともとが物の怪たちがこのドライブインを別の場所に移動させるまでの時間稼ぎが目的でしたから、それでもかまわないのです。

今回も面白かったですね。九郎の真意はすこしずつ見えてきましたが、一方で岩永の神秘性が高まった気がします。

まだまだシリーズは続いていきます。楽しみですね。

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