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【いまの僕が過去の僕とすれ違う】.poem?001

(前略)

槍のようなどしゃ降りのなか
びしゃびしゃになってる僕が
いききらして道のむこうから
「僕」のほうに走ってくる



現在の僕は傘をさしている
安い折りたたみの、錆びた傘

向こうの僕はこどもっぽい
Tシャツで、僕が好きだった
いぬのがらをしている

顔をゆがませ息をきらして
彼ははしるどろだらけで
きっと何度もころんだのだろう

「僕」は、僕が向かってくるのを
擦り切れた靴を止めて、見ていて

何故そんなにも苦しむのだろう
馬鹿みたいじゃあないか
足を引っ掛け
転ばせてやりたくなる

きっと足をひっかけられ
僕はじめんにぶったおれて心おれて
意地悪な僕は滑稽だと笑って
ただただ僕を見下している

何でそんなに走ってるのだろう
どうせたどりつけないのに

何でそんなに苦しむのだろう
寒さにふるえて傷つけまくって


良い事なんか無かったのに

結局


僕は何もせず僕とすれ違った。
僕が折りたたみ傘を傾けて
僕はとおりぎわに頭をさげた
それは一瞬で

傾けたぶんだけ雨が頬を打って



はしりさっていく
僕の背を見ながら
僕は折りたたみ傘を渡して
あげればよかったのに

と後悔したけれどもし仮に
渡したら、折りたたみ傘を
失ったら今度は僕が濡れて
しまう。それは困る


僕はどんどんといってしまって
やがてみえなくなった
だから僕も古びた靴を
再び前に踏み出して

少しだけ走ってみる
雨は意外とくすぐったかった

(後略)

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