劇団しようよ『パフ』@王子小劇場(8/18まで)※かなりのネタバレ含む。ただし読んでも魅力が減ることはないかと。

改めて書くまでもないけれど、見失われがちなことでもあるので、まず前段として。

ある劇団が「新しい」と話題を集め、高く評価される。でもそれはほとんどの場合、真の「新しさ」が評価されているのではない。
チェルフィッチュもままごともマームとジプシーも範宙遊泳も「これまでにないスタイル」を打ち出したから凄いのではなくて、彼らが表現したいと考える物語やテーマや問題や哲学を、最も効果的に伝えられると選んだのが、たまたま「これまでにないスタイル」だっただけだ。
演出の時代と言われて久しいけれど、問われるべきはいつも、そのスタイルは本当にその物語が必要としたものか否か、だ。

少し前に、ある地方の若い劇団の公演を観て、良くないほうの衝撃を受けた。冒頭を延々と飾った演出が肝心の物語の世界観と明らかに乖離していて、もしかしたらこれは「新しい(とされる)スタイルをやってみたらかっこいいんじゃないか、評価されるんじゃないか」という安易な判断に基づく演出ではないかと感じたからだ。

そんなわけで、劇団しようよを初めて観ることになり、HPに「人形劇」という単語を見つけ、考えたのは「そのスタイルは本当にその物語が必要としたものか」だった。
しようよは普段は京都で活動する旗揚げ4年目の劇団で、『パフ』は今年1月に京都で上演したものを、戯曲も演出もかなり手を入れての再演だという。再演までの期間の短さから想像すると、初演で何かしらの手応えを感じ、熱いうちに打ち直すべき作品だと判断したのだと思う。

果たして『パフ』は、スタイルと物語がお互いを必要としていた。
物語の前半はかなり子供っぽい。優しい両親、頼れる兄と小さな島に暮らす少年の楽しい日常、不思議な卵との出合いが順々に紹介されるのだが、悪い意味で絵本的な(善と美しか存在しない)世界が広がり、俳優達は人形劇(と言うより児童劇)のイメージに引きずられた発声、喋り方をする。
だが作・演出の大原渉平はおそらく直感的に、こちらの集中力と忍耐力が切れるぎりぎりのところで違うカードを差し挟む。主人公の少年が飼うことになった正体不明の生物ジャッキーに、少年の思いとは全く呼応しない話をさせるのだ。飄々とした関西弁で語られるジャッキーのモノローグは、可愛がる/可愛がられるといった二方向の関係性をあっさり無化し、この物語を無邪気さの押し付けから解放し、それまでのありきたりだったフレームを変容させる。
それだけではない。やがて『パフ』全体が、無邪気でいられる時間を強制的に奪われた少年の、痛々しい思い出の時間だったことが明らかになっていく。少年からたっぷりの愛情を注がれながらジャッキーが考えているのは、祖母の葬儀のあとに自分を慰めるようになついてくれた野良猫のことなのだが、もっと大きな現実が、少年の「僕は僕が住んでいる町が大好きです。お父さんもお母さんもひなこさんも大好きです」という思いを永遠に一方的なものにしていたのだ。人形劇の劇団でもないしようよが、この作品で人形を使っている理由がここでわかる。
さらに、この物語に登場する天災は火山噴火なのだが、少年が目撃する「海から立ち上がった黒い竜」が地震による津波なのは明らかで、俳優が人形を手放した時、災害後の現実が突き付けられる。ここで大原が(直感的にではなく)優れているのは、申請という短い言葉でそれを伝えること、人形劇のシーンでは幸せの象徴だった焼きそばを兄弟だけの味気ない朝食として登場させたこと。そうした小さなせりふがあって、シーツは遺体を包んだ布に見え、海として使われていたブルーシートは仮設住宅の床に見える。
翻って全体的に感心したのは、しようよが、アコースティックなものを集めて生まれる運動を信じ、最初から最後までそれを目指していることだ。段ボールや電球はその目的のためにまじめに機能していたし、「シーツから太陽の匂いがいっぱいして」というせりふのすぐあとで舞台の左右に張られたロープに白い布が洗濯物のように干され、そこに人形が立ってシーツが町の道になっていくというオープニングの「戯曲→道具→情景」への移行もそのひとつ。

まだまだ削れるせりふはあるし、この物語の立ち上がりだったというピーター、ポール&マリーの名曲『パフ』から生まれた少年とジャッキーのつながりが説明不足だし、ジャッキーの存在がうまく活かされてないことも欠点だが、それらを二の次の問題にしたくなる大きなものが土台にある作品だ。

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演劇ジャーナリスト。著書に『我らに光を』(さいたまゴールド・シアターインタビュー集。河出書房新社)、『演劇最強論』(藤原ちから氏と共著。飛鳥新社)、『「演劇の街」をつくった男 本多一夫と下北沢』(ぴあ)。ツイッターはk_tokunaga

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